2014年6月29日日曜日

Mary J. Blige『Think Like A Man Too』(2014)

このアルバムをどのように捉えるべきか、というのは野暮な問いかもしれません。メアリーJ.ブライジの新作であるとこの際はっきりと言ってしまいましょう。

昨年末にメアリーはヴァーヴからクリスマス盤をリリースし、新境地を開きました。あのアルバム、中古で少し遅れて入手したのですが、見事なまでにR&B要素はなく(ゴスペル風味の曲はあったけど)、ホリデイアルバムのマナーに沿った非常にクラシカルな作風で驚いたのを覚えています。色々とやってきたメアリーだからあれもありかもしれないと思いつつ、何か物足りなさを覚えたりもしました。シンガーとしての彼女の歌声を堪能するにはあれもまたひとつの趣きだったのかもしれません。

まあ、あれはああいう企画物だからよかったのですが、まさかその次作までも企画物で攻めてくるとは・・・これには意表を突かれました。サウンドトラックなんですよね、今回は。しかも、サントラなのに全曲メアリー姐さんの新曲っていうサプライズです。いままで多くのサントラに参加してきた彼女ではありますが、全曲メアリーっていうのは言うまでもなく初めてのことです。サントラとして考えても大胆な試みだと言えるし、メアリーのキャリアの中でも、一度あるかないかぐらいの特別な作品と言えるのではないでしょうか。

一応映画のサントラということで、音楽の中身も映画を意識したものになっているとは思うのですが、肝心の映画を観ていないので、世界観がどうシンクロしているのかというは評価することはできません(日本公開ってそもそもあるの?)。ただ、一つ大事なのは、この映画にメアリー自身は出演していないということ。過去にプリンスやマライア・キャリーが自身の主演映画に合わせてサントラアルバムを出したりしましたが、そういうことでもなく、純粋に彼女の音楽がサントラとして採用されたというわけなんですね。これは彼女の女性R&Bシンガーとしてのステータスと無関係ではないでしょう。メアリーだからこそ可能な企画だったと思います。

さて、そのサントラの中身ですが、全14曲中7曲をトリッキー・スチュアートとザ・ドリームのコンビが手がけています。過去にもメアリー曲を手がけたことがある2人ですが、今回はメイン級での扱い。やや旬が過ぎてしまった感の二人ではありますが、実力があるのは間違いないので、どんなサウンドになっているか期待が高まるところです。

ということで、さっそく中身をみていくことにしましょう。

(1)A Night To Remember
アルバムのオープニングを飾るのは、1982年にシャラマーがヒットさせた曲のカバー。映画のイメージに沿った選曲でしょうか。原曲のアレンジに比較的忠実なディスコナンバーではありますが、古臭さを感じさせないような音づくりになっていますね。プロデュースを手がけているのはロドニー・ジャーキンス。チャカ・カーンの「Ain't Nobody」のカバーも彼のプロダクションでしたけど、こういう仕事を着実にこなせる手腕はさすがです。

(2)Vegas Nights feat. The-Dream
トリッキー&ドリームにジャーキンスもプロダクションに加わった豪華な作り。1曲目からシームレスにつながるアップテンポなナンバーです。ザ・ドリームがヴォーカルでも参加していますが、彼の声を聞くの久しぶりな気もします。歌詞にはマイケル、グラディス、アレサ、マーヴィン、JBなど古き良きソウルの時代のアーティスト名が織り込まれ、楽しい雰囲気を感じさせます。

(3)Moment of Love
トリッキー&ドリーム作。ずっしりとしたベースラインにホーンやシンセの音が重なり、これまたきらびやかなサウンドになっています。こちらの曲ではダイアナ・ロスの名前が出てきますね。

(4)See That Boy Again feat. Pharrell Williams
アルバムの中でも注目度の高いこの曲。いまノリにノッているファレルのプロデュース作です。彼は過去に「Still Away」(2001年)という曲を手がけたことがあるけど、13年の時を経て再共演が実現するとは驚きです。彼らしいスムーズなダンサーで、ファレルも歌声を披露しています。

(5)Wonderful
アップテンポな曲が続きます。4人のプロデューサー・チームによる共作で、ア・トライブ・コールド・クエストの曲(というか声)をサンプリングし、ヒップホップ・フレイヴァーのあふれる楽曲に仕上がっています。これぞメアリーといった王道なヒップホップ・ソウルです。

(6)Kiss and Make Up
同チームによる2曲目。こちらもアップテンポな曲で、メアリーらしいパワフルな歌声も印象的な一曲です。

(7)Cargo
ここに来てちょっとクールダウン。トリッキー&ドリームコンビによる作で、重た目のドラム音を基調に、パワフルなメアリー節が炸裂します。

(8)Suitcase
先行シングルとしてカットされた曲。マークJ.フィーストという人がプロデュースのクールなR&Bナンバー。歌詞はいわゆる「グッバイ・ソング」で、「あなたが言い訳しようしているうちに、わたしはスーツケースのジッパーを締めるわ」と強気なメアリー姐さんです。

(9)I Want You
6分強の大作。ジェリー・デュプレシス作で、ソングライティングにジャズミン・サリヴァンの名前があります。ロックチューンというわけではありませんが、曲の後半にかけてがなるようなメアリーの歌声とエレキギターが絡みあい、アルバムの中でも異色なトラックだと思います。

(10)Self Love
テイマー・ブラクストンの「Love and War」で一気に名を上げたダリル・キャンパーのプロデュース作。彼らしい浮遊感のあるトラックで、あまりメアリーらしくない感じもするけど、アルバムの中の一曲としてはいいかなという仕上がりです。

(11)Power Back
ここから4曲はトリッキー&ドリーム作。これもとらえどころのないサウンドで、悲しいかなあまり強い印象が残りません。

(12)All Fun and Games
ずっしりとしたスロウ。バラードというわけではないけど、気だるくも重々しくて、無くてもよかった曲という気がします。

(13)Better
ミディアム・テンポのR&B。ビートは控えめで、クールなメアリー。うーん、どうなんだろう。トリッキー&ドリーム、なぜこんなプロダクションなのか・・・

(14)Propose
いかにもエンディングなラスト。ピアノとクラップで、歌詞の内容もタイトルが示す通り、大切な人へのプロポーズの歌になっています。あまりに展開がベタ過ぎるのだけど、サントラとして考えるとわかりやすいなと思います。


サントラだからどうかわかりませんが、今作ではラッパーとの共演がありません。それでよかったと思います。ゴリゴリのヒップホップチューンならいてもいいけど、今回のコンセプトからして、メアリーの歌声だけで十分ですから。

それにしても、がっかりさせられるのは、やはりトリッキー&ドリームのプロダクションではないでしょうか。特に後半の楽曲群がどれも精彩を欠いている気がするのは、何なんでしょうね。前半がアップテンポな楽曲でつないでいい感じなだけに、余計にそう思ってしまいます。サントラであることを意識しての音作りだったのかもしれないけど、もう少しメリハリがあるサウンドにならなかったのかと、そこが悔やまれますね。

悲しいことに、今作のセールスはメアリーとしてはあり得ないほど低く、全米チャートでは初登場30位にとどまっています。プロモーション不足も原因だと思いますが、やはりサントラということで映画への注目度とともに高くはならなかったということなのでしょうか。いろいろと残念です。

しかし、メアリーファンなら十分に楽しめる内容であることには間違いないです。純粋な新作ではないけど、このような形だからすんなり世の中に出たとも言えるわけで、しばらくはこのアルバムを楽しみたいと思います。




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