彼女がデビューしたのは2002年の頃、当時は「Hip-Hop/R&Bのプリンセス」とキャッチフレーズが付けられたりもしていました。ポストメアリーJ的な立ち位置の若手シンガーとして、いきなりブレイクを果たしたのが、アシャンティというわけです(そういえば、Hip-Hop/R&Bということば自体がいまや死語になりつつありますが、これも時代の流れですね)。
何しろ彼女のデビューアルバムは初週でいきなり50万枚も売り上げたわけですからね。女性シンガーのソロ作でそこまで売り上げられるアーティストは本当に限られているわけで、振り返ると、すごい快進撃と言えます。
彼女は新興レーベルであった「マーダー・インク」(後に「ジ・インク」に改名)に所属していました。看板ラッパーであるジャ・ルールとともに、彼女がこのレーベルの稼ぎ頭だったことは間違いありません。そのことを象徴するかのように、1年に一枚のペースでセカンド、サードアルバムを立て続けにリリースし、ヒットを飛ばしました。
しかし、レーベルのいざこざも起因して、彼女の活動は失速してしまいます。実質、彼女がトップランナーとして活躍したのは3~4年ということになります。その後は、女優としての仕事をこなしながら、次のアルバムリリースに向けて、音楽活動を地道に続けていくことになります。自主レーベルを立ち上げたりもしましたね。
そうして、約4年というブランクを得てリリースされたのが、4枚目のアルバム『The Declaration』(2008年)でした。モータウンからの発表だったのですが、このアルバムはこれまでの3作とは違う、彼女の新たな一面を見せる素晴らしい作品だったと思います。デビュー当初の彼女は、作風としてはクールさを前面に出したような印象でしたが、今作ではエモーショナルな表現やポップな曲調など、従来にないアプローチが目立ち、彼女の成長が垣間見れる仕上がりになっていました。
さて、そこからこの新作の発売に至るまでに約6年の歳月が流れました。ファンにしてみれば、だいぶ待たされたなあという感想です。実は、3年ぐらい前から新作リリースの話は流れており、シングルを何枚かリリースした他、アルバムのジャケ写も公開されていたのですが、シングルがヒットしなかった影響もあって、延期を繰り返していました。
さすがに1年以上延期を繰り返すと、このままリリースされずに流れてしまうのではという危惧も生まれるものですが、今年に入ってようやくリリースの運びとなったということで、これはよかったなと思います。
ということで、さっそくですが、この作品の内容に移っていくことにしましょう。
(1)Intro: Braveheart
前作と同様、アシャンティの語りから始まります。「わたしは成長し続ける、勇敢であり続ける」と極めて力強い宣言です。そこから、そのままオープニングトラックへ。ミディアムテンポのドラマティックなR&Bで、アシャンティの伸びやかな声が曲のタイトルを象徴しているかのように聞こえます。
(2)No Where
ピアノの音が爽やかなR&Bナンバーで、リーファという人がプロデュースしています。歌詞はどんな困難があっても立ち向かっていく、そんな力強い意思を込めたラヴソングになっています。
(3)Runaway
同じくリーファ作で、曲調もピアノの音が散りばめられたミッドテンポのトラックということで、同系統のトラックになっています。しかし、こちらは失恋の歌。これ以上耐えられないからあなたから立ち去るわ、とやっぱり強気なアシャンティですw
(4)Count
ヤングマニーのプロデューサー、ディテイルが手がけたトラック。ベース音がきいた、ヒップホップ色の強いサウンドで、アシャンティは「わたしにお金の勘定なんてさせないでよ」と歌っています。お金のことは気にせず派手に行きましょう、ということなのかな。
(5)Early In The Morning feat. French Montana
こういうラッパーの起用法というのがトレンドなのかどうかはわかりませんが、フレンチ・モンタナはここではオートチューン歌唱を披露しています。フューチャーの得意技だと思ってたけど、フレンチ・モンタナもやるんですね。ほとんどデュエット的な感じですが、アシャンティより彼の方が目立っている・・・それが狙いなのかどうか。
(6)3 Words
前作でも起用されていたL.T.ハットンがプロデュース。シンセサイザーの使い方など、前作でのサウンドの延長線といった感じがします。アシャンティは、全体的に力の抜けたヴォーカルで、柔らかい歌声をここでは披露しています。ちなみに、タイトルの意味は、言われるとそのまんまなのですが、「I Love You」を示しています。
(7)Love Games feat. Jeremih
ジェレマイ、ちょっと前にブレイクしたけど、最近は音沙汰ない感じですね。意外な起用という気がします。しかし、不思議なことに、ここでも(5)みたいに微妙に加工されたヴォーカルで彼は登場します。ただ、当たり前だけど、フレンチ・モンタナよりは歌はうまいです。あと、彼の歌声を聞いていると、どうしてもクリス・ブラウンっぽく聞こえてしまうんですけど、どうなんでしょう。それを狙っての代用魚的な起用だとしたら気の毒だなあとw
(8)Scars
シリアスなアシャンティ。畳み掛けるようなヴォーカルが印象的です。「傷」というタイトルが示すように、失恋の痛手について歌われていますね。後半には彼女の語りも入り、パーソナルなことを歌ったのかなという感じがします。
(9)Never Should Have
リードシングルとして発表されたナンバー。いかにもヒット狙いな、ドラマティックな作りになっています。フックでは「わたしなんて愛するべきじゃなかったの」と切ないフレーズが登場する、失恋ソングです。それにしても、某サイトに書かれたコメントが直球過ぎて笑えるのですが・・・この曲は「元カレのネリーのことを歌っている。その恋愛で彼女がどれだけ傷ついたかについて」だってw ファン心理ってそんなもんなんですかね。
(10)She Can't
曲調はちょっとポップで歌唱も軽快な感じがします。アルバムの中の一曲、っていう感じで、あまり印象には残らないんですが・・・
(11)Don't Tell Me No
シンセの音がちょっと忙しない感じのアップテンポなR&B。歌詞は、元カレへの未練を歌ったような内容で、「ノーだなんて言わないで」というフレーズも、忘れることができない彼に向けてのメッセージになっていますね。やっぱりこれもネリーの(略)
(12)I Got It feat. Rick Ross
こちらは、アルバムの発表前に公開されたアルバムからのセカンド・シングル。リック・ロスを迎え、ヒップホップ色の強い、クールなアシャンティを押し出したナンバーになっています。従来の彼女のイメージをアップデイトしたような、そんなかっこいい仕上がりだと思います。PVもセクシーでいいですね。
(13)First Real Love / Outro feat. Beanie Man
アルバムのラストを飾るのは、ビーニー・マンを迎えてのまさかのレゲエチューン。アシャンティ自身は決してレゲエ的な歌いまわしをするわけではないのですが、レゲエならではの陽性な曲調が晴れやかで、明るくアルバムが締めくくられます。
全13曲収録。全体的にアップテンポな曲調が多くて、そこは好印象だなと思います。ヒップホップ色が全面的に出たわけではないけど、あくまでコンテンポラリーなR&Bサウンドを指向していて、前作を発展させたような作品のように感じました。
ただ、あのビヨンセですらああいう挑戦的なことをせざるを得ない状況にあって、再起を図るのに万全な作品だったかと言われると微妙と言わざるを得ないでしょう。インディーズだから予算も限られていたとは思うけど、だからできることもあったのではないかと、ふと思ってしまいました。
こういうストレートなR&Bというのも最近少なくなってきているので、そこはいいんだけど、もう少し何かフックになるものがあれば・・・というのはない物ねだりでしょうかね。
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