2016年7月15日金曜日

Maxwell『blackSUMMERS'night』(2016)

本日はマックスウェルの新作を取り上げます。何というか、久しぶりに聞いていて心がウキウキしたアルバムだったので、何か書いてみたいと思います。

それにしても話は変わりますが、ストリーミングサービスというのはそれなりに罪深いものでもあります。わたしは、この作品が出る日(つまり7月1日)を楽しみにしていたのですが、当然、作品はCDで買うつもりでいました。ところがGoogle Playを開くと、発売と同時にこの作品が公開されているではありませんか。そして、再生したいという欲望を抑えることができませんでした。

言うまでもなく素晴らしい内容であります。そして、ここで二つの選択肢が現れることになります。改めてお金を出してCDを買うのか(ダウンロードという手もある)、このままストリーミングで良しとするのか。

それなりに迷いましたが、結果的にアルバムは購入することにしました。お値段の問題もありましたが(HMVでまとめ買いしたら1200円ぐらいだった)、このブログで取り上げる以上、作品は手持ちでありたいというささやかな意地もありました。

しかし、ここ最近を振り返ると、そこまでして作品をCDという形で所有しておきたいと思える作品って少なくなったなあと、その状況自体になんだか切ないものを感じてしまいます。CD以外の選択肢が増えた必然的帰結であるとともに、「じゃあ、そもそも音楽を体験することってどういうことなの?」という哲学的な問いへとふと誘われてしまいますね。わたしは、少なくともパッケージにに触れること、封を開けること(US輸入盤特有のシール剥がしも)、ディスクをプレイヤーに挿入すること、ブックレットに直に触れることといったことは、決して音楽体験において聞くことと無関係なものとは思えず、買わなきゃわからなかったことというのがあるのだと信じます。

さて、今年のR&B業界ですが、トラップ系R&Bの定着とベテランの復調というのが、おぼろげながら感じることです。特に後者ですが、アンソニー・ハミルトン、タンク、ブラマク、ミュージック・ソウルチャイルド、ジャヒームなどおっさん系アーティストが手堅い作品を発表しているのが印象的で、このマックスウェルもその系譜に並ぶかもしれません。もうすぐキース・スウェットという超大御所の新作もリリースされますしね。もちろん、プリンスというレジェンドの死という出来事も忘れることはできません。

そんな中、やっと本題ではありますが、このマックスウェル、前作から7年というブランクを得てようやくの新作リリースとなりました。思えばその前作『BLACKsumeers'night』も8年ぶりというブランクものであったのですが、90年代ネオ・ソウルとして一括されるようなある種の音楽的潮流にいた人たちのマイペースっぷりというのは、また一つの現象のように思えるから不思議です(その極め付けがもちろんディアンジェロではあるのですが)。このマックスウェルも前作が3連作であると予告されていたことから、次作リリースは近いのかと思いきや、結果的にこれだけの月日が経ち、気づけば本人も43歳とガチでおっさん年齢になってしまっていました(ジャケ写観てるとずっとおっさんな感じがするけどw)。自作自演系の人であるだけに、良く言えば作品に対して一切妥協しないというポリシーの産物かもしれませんが、寡作過ぎるというのはなんだか寂しい気もしてしまいます。ちなみに96年デビューですが、この20年目にしてようやく5作目となります。

ここで、このアルバムの発売までの動きを少し振り返ると、2014年ころに雑誌のインタビューに答え、そこで現在次作を製作中であることを明かします。その後、SNSで2015年冬頃に新作をリリースする意向を明らかにするも発売に至らず。ようやく今年の4月になって6年ぶりとなる新曲を発売。そこからアルバムのリリースが確定しいまに至ります。

では、アルバムの中身を見ていくことしましょう。これまで同様、全曲マックスウェルのプロデュース(Musze名義)、加えて前作に続いてホッド・デビッド、デビューから付き合いであるスチュアート・マシューマンが共同制作者に名を連ねています。

(1)All The Way Love Can Feel
アップテンポな楽曲からスタート。軽快なドラムの音にホーンが絡み、そこに彼らしい繊細なファルセットが重なると、もうそこはマックスウェルの世界。さわやか過ぎる! 夏らしい一曲だが、一貫して繊細な歌声で通す彼の巧さもさすが。

(2)The Fall
変則的なリズムに乗せ、今度は地声での歌唱。アルバムは夏だがこの曲のタイトルは秋。でも、そんなに秋っぽい感じはせず、どういうニュアンスなのかつかみづらいかも。2曲続けてアッパーな印象。

(3)III
跳ねるようなシンセの使い方が印象的な3曲目。タイトルはすっかり「イルill」かと思いきや、数字の3の意味だった。歌詞も曲調もごきげんな感じです。

(4)Lake By The Ocean
リード曲として発表されたこの曲。一聴するなりこのアルバムが傑作であることを予感させる、そんな楽曲ですね。聞いているとうっとりした気分になります。しかし、一方で「海のそばの湖」なのである。このメタファーが示すものは何か、というのを考えるとそれなりに深いものがあるように思えます。

(5)Fingers Crossed
これまた夏らしいさわやかな一曲。聞いているだけでうっとりとしてきます。手話を取り上げたと思われるリリック・ビデオも素敵です。さりげにピアノにロバート・グラスバーも名を連ねたりしていますが、曲間や後半のアウトロで潤沢なホーンセクションがグルーヴ感をを盛り上げるのがいいですね。

(6)Hostage
ちょっとクールで不思議なテイストの曲。テンポ感はありながら派手に盛り上がる感じではなく、淡々とした印象。ただ、後半のパートでは歌唱で盛り上がる部分があり、この曲のメッセージの一番核になるところといえるかもしれません。

(7)1990x
マックスウェルの繊細のヴォーカルワークが光る曲。どこか異次元の宇宙に連れていかれそうな、そんな不思議なグルーヴ感です。

(8)Gods
比較的しっかりとしたメロディーで歌われる一曲。コーラスワークも控えめで、少し切なさも感じさせます。

(9)Lost
少しテンションが低い、どろくさいソウル~ブルースといった面持ちの一曲。アルバムの中では少し異色な感じがしますが、流れ的には問題ないです。

(10)Of All Kind
ファルセットを多用し、雰囲気的には(4)と似たような様相の曲調。これも聞いてるとうっとーりしてしまいそう。

(11)Listen Hear
実質的なラスト曲。途中で泣きのエレキギターの音が入ったりして、夜の少し怪しげな雰囲気を醸し出したナンバー。

(12)Night
23秒のインスト。波の音と思われる。「written by Earth」とクレジットされています。

全12曲。前作のインスト込みで9曲という寂しさに比べたらよりアルバムらしい楽曲群という感じがしました。

全体的に眠くなりそうなバラードは少なくテンポ感を保ちつつ、しかしマックスウェルの変幻自在のヴォーカルで思わずうっとりしてしまいそうな楽曲が並んでおり、全体としてバランスの取れたまとまりのいい作品になっていると思います。表現力が乏しくうまく言い表せなかった部分もありますが、とにかくどの楽曲にも隙がなく見事な完成度です。

どうやら来日公演も控えているようです。セールス的には前作と比すると苦戦しているようですが、一聴する価値のある見事なアルバムだと思いました。次作にも期待したい!



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