前作『Side Effects of You』からの動きを振り返っておきましょう。まず、ブロードウェイのミュージカル『After Midnight』への出演がありました。歌手としてのみならず活躍の幅を広げていると言えそうです。また、2014年のグラミー賞において3部門でのノミネートがあり、R&B系アーティストとして着実に評価を獲得していることが確認されました。よろこばしいことです。そして、デビューからのディスコグラフィを見ればわかるように、3年ごとにコンスタントに新作リリースを続けています。そして、今作もRCA/19からのメジャーでのリリースとなります。
しかし、一方で前作の主軸だったハーモニー・サミュエルズは不参加で、代わりに指揮をとったのがなんとロン・フェア。当ブログ的には、レディー・ガガ、メアリーJ.ブライジやキーシャ・コールらのプロデューサーとして注目ですが、噂レベルでは最近ではTLCの最終作にも参加するといわれています。A&Rとしての実績が強く、それほどサウンド的に特徴があるわけではありませんが、逆に堅実なベテランともいえるでしょう。
意外といえば、R.ケリーの参加というトピックがありました。2014年の末にファンテイジアとレコーディングする写真がSNSにポストされ、果たしてどちらのアルバムに入るのかと思われましたが、今作にその成果が無事収録されることになりました。ただし、今回はよくあるデュエット形式ではないようです。
ということで、アートワークも相変わらず強烈な今作、さっそく見ていくことにしましょう。
(1)Crazy
アルバムの一曲目はいきなりのエレキギターのリフが炸裂するロック・ソウル調のナンバー。前作ですでに試みられたサウンドではありますが、いわゆるR&Bの枠を軽々と超えてのっけから強烈なオープニングでもあります。ティンバランドとの共作でも知られるジェローム・ハーモンが単独でプロデュース。
(2)No Time For It
リードシングルとして発表された曲で、ポップ~R&B系のプロデューサーであるブライアン・ケネディが手がけた曲。前作の「Without Me」をよりポップよりにリファインしたような軽快なR&Bで、聞きやすさはあるがその分彼女特有の「えぐみ」は薄れてしまったかもしれません。
(3)So Blue
ロン・フェアが手掛けた一曲目。ロン・フェアらしく豪華なストリングスを配したサウンドが特徴的ですが、ありきたりなバラードではなくアップテンポに彼女らしいトラックになっているのがよいと言えるかもしれません。しかし、内容は浮気してしまった女性の未練…
(4)When I Met You
こちらもロン・フェアが関与しているがNeff-Uの名前もあります。曲調はドラムレスなバラード調で始まり、途中からドラムも加わった壮大なポップバラードに展開するという、アルバムの中ではかなりベタなつくり。ここではストリングの使い方がそのベタさ具体を強調しているような感じも受けますが、コーラスの配置や転調など安心感のある内容ではあります。ある意味ウットリさせる内容かもしれません。
(5)Sleeping with the One I love
噂のケルズ氏とのコラボレーション。実は女性シンガーをプロデュースさせたらピカイチの才能を発揮する彼ですが、ここではあまりにベタすぎるような泥臭いソウルマナー曲を提供。テイジアのしゃがれ声も炸裂しています。
(6)Stay Up feat, Stacy Barthe
ここにきて客演が登場。ステイシー・バースは、過去にリアーナ、マイリー・サイラスやマーシャ・アンブロジウスなどのソングライティングを手掛け、自身も昨年アルバムデビューを果たしたシンガー。ここでの声はスカイラー・グレイっぽくありますが、リバーブがきつくかかっているよう。曲自体はクールな面持ちで歌唱も控えめ、これといって特筆すべきことがないかもしれません。リズムはかすかにレゲエを意識した感じがしますが。
(7)Ugly
醜さがテーマの楽曲でロン・フェア作のカントリーバラード。ピアノとアコギ主体で緩急織り交ぜてひたすら歌い上げる彼女。このダイナミックなアレンジ展開がロン・フェアらしさといえるかもしれません。後半にはアコギとストリングス、そして力強いコーラスが彼女を支えます。ある意味挑戦しているといえます。
(8)Wait for You
イギリスのエレクトロ系プロデューサーであるグレイズが手掛けるも、エレクトロ要素は少なく、軽快なEDM要素も多少交えたダンスナンバー。いまどきという気もするし、R&B的な視点から見ればつまらないと言えばそれまででしょうか。
(9)Roller Coasters feat. Aloe Blacc
客演の2組目はアロー・ブラックと、これまたひねりのある人選。楽曲はアコギも踏まえたなんとも泥臭い印象のソウルナンバー。一方で印象的なフックが交わる不思議な高揚感。楽曲の雰囲気を踏まえればこの人選も納得です。
(10)Lonely Legend
サウンド的にはある意味一番いまっぽいかもしれない少しスキのある音ですが、彼女の歌が薄れることはなく、途中からギターも入りポップさも増しますが何も気になるところがありません。さすがです。
(11)I Made It feat. Tye Tribbett
最後はゴスペルシンガーのタイ・トリベットを招へいし、テンションの高い壮大なゴスペルナンバーを披露。この歌唱力には誰もが納得させられるとこでしょう。
全11曲収録。過不足なくきっちりまとめられていて好感がもてる楽曲構成ですが、残念なことにこれまでの功労者であるミッシー・エリオットの名前はありません。ジャンル的には前作よりも超越傾向が強く、R&Bという枠に収まらないサウンドを目指しているように思います。しかし、にもかかわらず決してサウンド的にとっちらかした感じがしないのは、それこそロン・フェアのプロダクションの力が大きいと思われます。
R&Bのあり方が問われている昨今において、ある意味ここまで愚直に「音楽」と向き合おうとした彼女は素晴らしいといえるでしょう。何を歌わせて彼女は決してブレていないと思います。
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