2013年8月12日月曜日

Jay Z『Magna Carta... Holy Grail』(2013)

レビューするかどうか迷っていたのだけど、ちょっと期間をあけたら、書く気になったのでポストします。

ジェイZの通算12枚目となるオリジナル・アルバムです。6月ぐらいだったか、突然発売が予告されましたね。それも、サムソンのスマホ、Galaxyシリーズの無料アプリとしてデジタルダウンロードできる形になるという、これまた斬新なというか、ビジネスマンらしい発想での発表です。もちろん、通常の形でもダウンロードできるし、CDも遅れて流通するようになったのだけど、とにもかくにも、そういう戦略でしかけてきたわけです。

戦略と言えば、リードシングルもなく、前情報が十分にないまま、いきなりアルバムをリリースするというのも、ひとつの戦略と言えるでしょう。作品自体が謎めいたまま突如世界に配信されることになるわけです。このちょっと前に出たカニエの『Yeezus』も、そうした戦略性を持った作品でしたが、ジェイZもソロでは4年ぶりのリリースということもあり、話題作りを優先したのかもしれませんね。言うまでもなく、こんなことできるのは、毎回のようにアルバムを出せばヒット確実な大物だからできることなんですよね。よくわかっているなあ、と思います。

ところで、ジェイZと言えば、由緒正しき正統派なヒップホップ/ラップを聴かせるアーティストであると共に、その時々の旬のプロデューサーを起用して作品を築き上げるトレンドセッターでもあるわけです。過去11作(コラボ含めるともっと)もアルバムを出してきたという(そして、どれもプラチナヒットしている)だけでとてつもないのだけど、そして、そのどれもが大ヒットというのはとんでもないのだけど、いったい今度のジェイZはどんなサウンドで攻めてきたのか、というのはリスナーにとっては楽しみな一つなわけですね。

ということで、今回の作品なのですが、曲の大半をティンバランド(および相棒のJロック)がプロデューサーしています(直接じゃなくてアディショナルという形で関わっている場合もあります)。今年一番のヒット作であるJT作品でも手腕を振るっていましたが、今回は最近ヒットが少ない彼を敢えて担ぎだしたといえるかもしれないですね。過去に「Big Pimpin'」や「Dirt Off Your Shoulder」などヒット曲を生み出してきた彼だけど、ジェイZとこんだけガッツリ組むというのは、実は今回が初めて。一時期不仲になっていたという話もありますが、ここに来てガッツリタッグを組んだのには、何か理由があるのでしょうかね。少なくとも、カニエとの一連のコラボの後、新たな一手を模索していたのは間違いないはずなので、そこで彼に白羽の矢が立ったのかもしれません。

このアルバムですが、発売初週でいきなりに50万枚越え、アプリとしてのリリース自体でプラチナ認定を受けており、帝王の存在感は相変わらずですね。


さっそく、中身に移りましょう。


(1)Holy Grail feat. Justin Timberlake
「Suit & Tie」のお返し共演、ジャスティン・ティンバーレイクが参加した曲で、ドリームがプロデュースに加わっています。のっけからJTの甘い歌声が炸裂、どっちが主役かわからない状態になっていますw ニルヴァーナの名曲の一節を引用していることでも話題になっていますね。アルバムからのリード曲で、全米チャートでも5位まで上昇しています。メロウでいいですね。



(2)Picasso Boy
うねるようなベースが特徴的な重量感のあるトラック。後半で曲調がちょっと変わって、よりロッキッシュな感じになります。ピカソをはじめ、いろいろな芸術家の名前がラップの中に取り込まれています。

(3)Tom Ford
これぞティンバランド。切り刻むようなビートにゲーム音的なシンセが重なり、なんとも不穏な空気を醸し出しています(サウンド的には50セントの「Ayo Technology」をどうしても思い出してしまうのですが)。

(4)F*ckwithmeyouknowigotit feat. Rick Ross
リック・ロスを迎えて、トラップっぽい感じの地味なトラックに挑戦していますね。この曲はボーイワンダがプロデュース、少しひねりを入れてきたという感じでしょうか。でも、あんまりジェイZっぽくないかもw

(5)Oceans feat. Frank Ocean
『Watch The Thrown』に引き続きフランク・オーシャンを起用、ホーンセクションとティンパニの音が映画音楽のような重厚感を演出していますが、プロデュースはファレルが担当。あんまり、というか全然音がファレルっぽくないんだけど・・・大洋氏は安定のヴォーカルを披露しています。

(6)F.U.T.W.
ティンバの曲だけど、あまりビート感がなく、ウワモノの印象が強いですね。タイトルは「Fuck Up The World」の略ですか・・・なんか適当な気がするw

(7)Somewhereinamerica
2分30分の小曲。ヒットボーイやマイク・ディーンらがプロデュース。気の抜けたトロンボーンの音とダイナミックなピアノ音の組み合わせが面白いトラック。いまなお存在するアメリカ社会のレイシズムについてラップしている・・・らしいです。

(8)Crown
トラヴィス・スコットとマイク・ディーンがプロデュース、シズラのサンプルから始まるのだけど、レゲエチックな要素はなく、ベース音がズッシリ響くトラッパーな一曲。今回は、この手のダークで重苦しい曲調が多いですね。

(9)Heaven
フィーチャリングのクレジットがないものの、JTがフィルターをかけた状態でフックを歌った、哀愁ただよう一曲。

(10)Versus
約50秒の小曲。スウィズ・ビーツとティンバランドのコラボという意外な組み合わせ。

(11)Part II (On The Run) feat. Beyonce
嫁はん登場! ビヨンセが透明感のあるヴォーカルを披露しています。今回はガッツリ歌い上げるビヨンセじゃなく、ヴォーカルにもちょっとフィルターかかった感じで、その意味では夫を引き立てる役割なのかなあと。別にこれビヨンセじゃなくてもいいよなあ、と正直思うのですが。

(12)Beach Is Better
1分弱の小曲。いま勢いにのるマイク・ウィル・メイド・イットがプロデュース、こちらもトラップ的な音。短いのですぐに終わっちゃいますがw

(13)BBC
「億万長者少年倶楽部」という日本語(言っているのはNIGO氏らしい)からはじまる、パーティームード満載のパーカッシヴな曲で、ファレル制作。カウベルの使い方とか、それっぽいトラックですね。客演クレジットにないけど、ナズも1ヴァースでラップしています。アウトロで朝鮮語も出てくるけど、これは誰が言っているんだろう。

(14)Jay Z Blue
ビギーの「My Downfall」使いの、ちょっと物哀しい感じもする一曲。

(15)La Familia
ここに来てダメ押しのティンバらしい一曲。構造としては(3)に通じるような曲調ですね。途中で映画のワンシーンのようなスキットが挿入されています。

(16)Nickles and Dimes
キャンボ・ジョシュアがプロデューサーとして参加したアルバムのラストを飾る一曲。なんていうか、これも哀愁感ただようんですよね。


全16曲収録。『The Blueprint3』なんかと比較すると、全体的に地味な印象を受けます。ダークでヘヴィな曲が多くて、逆にヒットチャートを狙えるようなポップな曲はほとんどなし。そして、ティンバランドがトータルで仕切っているはずなんだけど、どうにもこうにも、ティンバランドっぽさが希薄に思えます。

齢40を越えて、いつまでも弾けてられないとは思うので、そういう意味では極めてまっとうなオトナのヒップホップと言えるかもしれませんが・・・あまりガッツリ来なかったかな、正直。

 

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