彼は、今年のグラミーで「ベストR&Bアルバム」を受賞しました(『Black Radio』)。ジャズ分野の人なんだけど、受賞したのがR&B? ってなことで、ああグラミーっぽい通な選択だなあと思いつつ、アルバムの中身にはそんなに注目してなかったんですよね。なんとなく想像できたから。
ところが、今年になって早くもその『Black Radio』の続編が出るということで、そしてその中身(というか共演者)がまた豪華ということで、これはスルーできんなあと、気になりだしたのです。好きなアーティストがたくさん参加していたということなんですけどね。
ただですね、すぐにアルバムを購入しようとまで考えていなかったんです。ちょっと様子見ようかなって感じで。ただ、ある日CDショップに行ったときに聞いてしまったんですよね、このアルバムの中に入っていたある曲を。それがすごくクールでしてね、お店で流れたその曲が気になって、やはり買ってみようということになったのです。
それが何かは後で書くとして、まずは彼のことについて一通り紹介しておくことにします。
ロバート・グラスパーは、1978年生まれ、テキサス出身のジャズ・ピアニストです。お母さんがジャズ・シンガーで、自身も教会で若くからピアノを弾いていたそうですが、高校ではR&Bシンガーのビラルと同級生だったようで、その後もQティップやカニエなど、ジャズ系でありながら、R&B/ヒップホップ人脈との交流が盛んであるとのことです。
ピアニストとしては、2004年にデビュー、以後リーダー作を4枚リリースしています。
「ロバート・グラスパー・エクスペリメント」という名義は、4作目の『Double-Booked』が初出で、そこではトリオ作とエクスペリメント作が1枚にパッケージされた形でした(よく見るとこのときは「ザ・~」がつくのですが)。その後に出た『Black Radio』では、まるまるエクスペリメント名義でのリリースとなり、リミックス作を挟んでの今作がエクスペリメントとしては2作目になります。
ちなみに、このバンドのメンバーは、ロバート・グラスパー(ピアノ、ローズ、シンセ)、ケイシー・ベンジャミン(ヴォコーダー、サックス、シンセ)、デリック・ホッジ(ベース)、マーク・コールバーグ(ドラム、パーカッション)の4人(ドラマーが前作のクリス・デイヴから入れ替わっています)で、収録曲は1曲をのぞいてオリジナル、アルバムのブックレットにはわざわざ全曲生演奏である旨が記されています。
それではさっそく中身へうつりましょう。
(1)Baby Tonight (Black Radio 2 Theme) / Mic Check 2
1曲目は2部作。ローズ・ピアノのアンニュイな音にヴォコーダーの音がかぶさる、静かな始まりの前半。後半は、本作に参加しているヴォーカリストたちのマイクチェックを寄せ集めた、本編へ向かうイントロダクション。
(2)I Stand Alone feat. Common & Patrick Stump
豪華ゲスト陣が次々登場する本作の第一声はコモンのラップから。サウンドはネオ・ソウル的な王道のR&Bであって、この音にコモンというのは、むしろ既聴感を覚えるほどなじんでいるなあと思います。パトリック・スタンプの起用は意外な感じなのだけど、フックをさらっと歌うぐらいで、あまり存在感はないです。
(3)What Are We Doing feat. Brandy
この曲がね、ツボでしたねw ブランディーが好きっていうのもあるのだけど、彼女の低音が炸裂していて、それに90年代のR&Bフレイヴァーもあって、懐かしくも新鮮という感じがしたんです。実は、最初CDショップで流れているのを聴いた時、これが現在の曲であるとすぐに理解できなくて、ブランディってこんな曲歌ってたっけ?と思ってしまったぐらいなんですけどね。クールでカッコイイです。
(4)Calls feat. Jill Scott
リード・シングルということでPVが作られたこの曲ではありますが、これはなんというか、既定路線だなあと率直に思います。ジャジーな要素を作品に取り入れることで、歌い上げるだけでない、コクのあるヴォーカルを持ち味としてきた彼女だけに、そのお家芸的な部分を逆に持ってきてもインパクトがないなあと。相変わらずの催眠術的なヴォーカルはさすがなのではありますが。
(5)Worries feat. Dwele
なんとなくビートが打ち込みっぽい感じなんだけど、これも生なんですよね。スムースでアップテンポなR&Bナンバー。客演のドゥウェレ、なかなかブレイクできないけど、素晴らしいヴォーカリストです。そして彼の新曲と言われても不思議ではないぐらい、それっぽい仕上がりなのが笑えます。これも狙ったものなのかな。そういえば、ドゥウェレの初作でのローズ・ピアノの使い方が心地よいものだったのを、この曲で思い出しました。ぬくもりを感じるサウンドです。
(6)Trust feat. Marsha Ambrosius
スロウテンポで官能的な一曲。マーシャ・アンブロシウスの凍てつくようなヴォーカルに合わせるように、ピアノも流麗さとクールさを行き来します。いいコラボだと思いました。
(7)Yet To Find feat. Anthony Hamilton
ああ、なんで次から次にわたしの好きなヴォーカリストが出てくるの! アンソニー・ハミルトンのあの声で「うお~」とか歌われたら、こっちも悶絶しそうだわw しかし、曲調は想定内のネオソウル。
(8)You Owe Me feat. Faith Evans
フェイス、大好きなんですけどね、こういうジャジーなサウンドで歌うことはあまりないから、そういう意味では新鮮ではあるけど、彼女らしさみたいのはそれほど感じないかな。サラッと歌っているのは敢えてだと思うけど、ボーッとしてたら曲終わってた!みたいなあっさり感があります。
(9)Let It Ride feat. Norah Jones
こういうサウンドこそが「エクスペリメント」と呼ぶに相応しいと思うんですけどね。ジャズ畑のノラ・ジョーンズを迎えて、ドラムン・ベースを歌わせるという冒険、これは文句なしに好きですね。ピアノのアドリブ感もあって、逆にジャズっぽいなと思ってしまったり、そういう意外性があります。この複雑なリズムをきっちり叩くドラマーの腕前のさすがです。
(10)Persevere feat. Snoop Dogg, Lupe Fiasco & Luke James
スヌープとルーペ、というのは意外なチョイスですね。共同でプロデュースしているテラス・マーティンつながりと思われるけど、スヌープのまったりヴォイスはサウンドにマッチしてるけど、ルーペのラップは微妙かなあ。
(11)Somebody Else feat. Emeli Sande
エメリー・サンデが気だるく歌い続ける一曲。ジャジーなんだけど、彼女の持ち味みたいなのはあんまり感じないです。
(12)Jesus Children feat. Lalah Hathaway & Malcolm-Jamal Warner
スティーヴィー・ワンダー曲のカバー。前作に引き続き、レイラ・ハサウェイが登場、後半でラップというか語りを披露するマルコム・ジャマル・ワーナーは、アメリカの俳優さんだそうです。
全12曲収録、デラックス盤ではさらに4曲追加されています。
前作もそうだったのかもしれないけど、あんまりジャズという感じがしなくて、ネオソウル系のR&Bアルバムと言ったほうが適切じゃないでしょうか。R&Bリスナーには耳馴染みやすいと思います。それに、起用されているヴォーカリストが通好みというか、ジャジーなサウンドと相性のよさそうな面子を揃えているのもいいですね。
ただ、全体を通して、まったりと聞けてしまうというか、心地よいサウンドではあるかもしれないけど、何かココロを鷲掴みにされるような、ヴァイヴというかフィーリングみたいなものがあまりなくて、つまらないと言っちゃあつまらない作品だなあとも思うんですよね。上質ではあるけど、刺激的ではない。
ブランディーとかノラの曲とか、個人的にいいと思うのもあったのだけど、あまりに「エクスペリメント」じゃない音っていうのが続くので、R&Bの尖鋭的な部分が好きな人にとってはピンと来ないだろうなあと推測されます。
アダルトでムーディーなので、秋の夜長に聴くには最適・・・そういう意味ではオススメできる一枚です。
はじめまして。私は初めてI stand aloneを聞いた時衝撃でした。こんな曲がかかるcafeやclubがあればいいのになとおもいました。
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