2014年10月26日日曜日

Kem『Promise To Love』(2014)

アメリカR&B/ソウル業界における最右翼!とすら言いたくなる、ケムのニュー・アルバムを今回は取り上げます。

ケム…彼の名を知っているとすれば、相当にR&Bフリークなのではないでしょうか。そうであるが故に、音楽好きに「ケムとか好きなんだよね」とか言っちゃった日には「あんたどんだけ渋い趣味してんのよ」と突っ込まること間違いなしのアーティスト、それがケムです(笑)

なにせ、この徹底した普遍志向とでもいいましょうか、タイムレスでエバーグリーンなサウンド、土臭いソウルというよりも洗練されたジャジーなソウルを追求したその姿勢は、音楽業界におけるある種のバックラッシュ的な働きを果たしていると言えるものです。そこにあるのは「ただグッドミュージックを届けたい」という志のみ(たぶん)。トレンドへの意識とかクラブで盛り上がろうとか、そんなものへの関心は微塵もありません。

そんなケムが、貪欲に進化をしつづける現代のR&Bに食傷気味なリスナーの心の拠り所となったとしてもおかしくはないでしょう。

さて、ケムとは何者か。国内盤も出ておらず情報が少ない中ではありますが、紹介の意味を込めて少しまとめております。

ケム(本名はキム・オーウェンズ)は、デトロイト出身のシンガー・ソングライターです。ケムを語る上で避けて通れないのが、彼のいくつかの決定的とも言える経験、すなわち、高校卒業後に体験したホームレス生活とドラッグ中毒です。彼はこの経験を通じて、自身のスピリチュアリティを見つめなおす機会を得、そして音楽の道へと進むことになります。90年代の出来事です。

それから月日が経ち、2001年ついにデビュー作『Kemistry』をインディペンデントでリリースします。しかしすぐにヒットしたわけではありません。草の根の音楽活動をしながら徐々に認知度を広めていった彼は、現在も所属しているレコード会社であるモータウンと契約し、アルバムを再リリースすることになります。

このアルバムから最初のヒット曲「Love Calls」が生まれます。主にアダコン系のラジオを中心に話題となったこの曲のおかげもあり、デビュー作は50万枚を超えるヒットを記録します。

その後、2005年にはセカンド・アルバム『AlbumII』をリリース、これがいきなり全米5位の大ヒットを記録、そして5年のブランクを経たサード『Intimacy: Album III』はなんと全米2位を記録。彼にとって最大のヒットになるとともに、グラミー賞で2部門にノミネートされるなど、着実に実績を残していきます。

そんな彼の、クリスマス盤を挟んで4作目を、それではさっそく鑑賞してみたいと思います。

2014年10月13日月曜日

Jennifer Hudson『JHUD』(2014)

ジェニファー・ハドソン、通算3枚目のアルバムを今回は取り上げます。

ですが、このアルバムの紹介をする前に、ビルボードの記事の中に興味深い文章があったので引用することから始めたいと思います。

ビルボード曰く、「女性R&Bシンガーにとっては不遇の時代である。現在[この記事の執筆時点]のR&B/ヒップホップチャートでトップ25にエントリーしているのはわずかにティナシェ、ビヨンセ、ジェネイ・アイコだけ」と。男性シンガーとラッパーがチャートを席巻するというのが、いまの全米のチャートであるというわけです。

つまり、そういう状況において彼女は新作をリリースしないといけなかった、ということです。音楽をめぐる状況が一定であるはずはなく、女性シンガー大活躍の時代も過去にはあったわけですが、、ただ、いまはそうなっていないということですね。

言われてみれば「なるほど」と思うと同時に、このジェニファー・ハドソンも、チャートアクションでは確かにかなり苦戦を強いられているなあということを思い起こしました。

まず本作へ向けた動きをみると、リードシングルとして昨年9月に発表された「I Can't Describe」はファレル作ということで話題にはなりましたが、R&B/ヒップホップチャートで29位どまり。今年に入って、ティンバランド作「Walk It Out」で反転攻勢を試みるも46位とチャート的には奮いませんでした。

それでも、アルバムがリリースされたのは喜ばしいことではありますが、その影響もあって、今作も全米初登場10位と過去の彼女の実績からすれば、かなり落ち込んだ結果になりました。

ただ、それと作品の質は別物。70年代の音楽にインスピレーションを得たというこの新作をさっそくチェックしたいと思います。

2014年10月3日金曜日

Jhené Aiko『Souled Out』(2014)

ロサンゼルス出身の女性R&Bシンガー、ジェネイ・アイコの待望のデビュー・アルバムを今回は取り上げます。

母親が日本人とアフリカ系アメリカ人のミックスということで、アジア系の出で立ちが我々にも親近感を抱かせる彼女ですが、現在26歳でありながら、その音楽キャリアは苦節14年を誇る、苦労人でもあります。

彼女が音楽業界に足を入れたのは2000年の頃、姉がGyrlというグループで活動していた縁で、クリス・ストークと知り合いになり若干12歳にしてエピックと契約、当時彼がプロデュースして勢いのあったB2Kのアルバムに参加したりツアーに同行しながら、自身のソロデビューへ向けても準備を進めますが、これが残念ながらお蔵入り。その後、一度音楽活動を休止し学業に専念、彼女の20歳の頃にはR&Bシンガーのオライオン(オマリオンの弟)との間に娘のナミコを授かり、一児の母になります。

それから時を経て、2010年頃から彼女は音楽活動を本格的に再開。まずは西海岸のラッパーの作品にゲスト・ボーカルで参加し知名度を上げます。それも、ケンドリック・ラマーにスクールボーイQにアブ・ソウルと、なかなかに濃いメンツ。そして、自身も2011年に初のミックステープとなる『sailing soul(s)』をリリース、カニエやドレイクまで参加した豪華な作りのこのアルバムが業界で高い評価を得ることになります。そこから、デフ・ジャム傘下にあるNo.IDのレーベル、アーティウム(ARTium)レコーズと契約し、2013年には本作の前哨戦とも言えるEP『Sail Soul』をリリース。全米8位を記録します。

そして、今年になっていよいよ発表されたのが本作というわけですが、すでに業界的な期待値が上がっていた中でのリリースということで、彼女の歌声を知っていた人にとっては、随分と待たされたという気がしないでもありません。プロモーションに十分に時間をかけたと言えそうですが、その効果もあって、本作は初登場全米3位のヒットを記録しています。先行シングルが目立ったヒットをしていない中で、これは大健闘といえるでしょう。

ということで、期待の新人でもある彼女のデビュー作の内容をさっそくチェックしていきましょう。