2014年11月7日金曜日

Keyshia Cole『Point of No Return』(2014)

キーシャ・コールの通算6枚目にして、インタースコープからの最後のリリースと言われているニュー・アルバムを今回は取り上げます。

前作の『Woman To Woman』はこのブログでも取り上げましたが、それから約2年ぶりの新作ということで、リリースのペースとしては順調と言えるのではないでしょうか。

ただ、実際にこのアルバムに関してはいろいろと思うことがありまして、今回はそのことをまずは書きたいと思います。

まず、困ったのは今回のアルバム、大阪の大きなCDショップをいくつか回ったのだけど、輸入盤ですらフィジカルで流通してないのねw これには驚きました。すでにリリースしてから1月経っているけど、いまでも状況は変わらず・・・本国でもマイナーと思われるようなCDも取り揃えるような店で、彼女のCDを取り扱っていないのはなぜなんでしょうね。しかも、その店のウェブサイトではリリースされたことが告知されているのですよ。不思議過ぎます。

今後もしかしたら入荷の予定があるのかわからないけど、仕方ないので今回はitunesでダウンロードしました。当然ですが、今作は国内盤も出ないでしょうね。これでは、話題にもならないままフェイドアウトしても仕方あるまい・・・

それよりも、問題なのはこのアルバムの中身でしょう。具体的なことはこれから述べますが、この作品を聞きながら私の中にあることが思い浮かびまして、それは、ポスト『Beyoncé』時代をR&Bシンガーはどう生き残るのかということです。

この前も書いたけど、女性R&Bシンガーにとって今年は厳しい時代になりつつあります。確かにヒットチャートをみると女性アーティストが大活躍しているわけです。ただし、そこにR&Bシンガーは居てない。昨年末にビヨンセが一人勝ちして以降、ある意味R&Bはヒットの方程式を見失ってしまったかのような気さえします。ニューカマーとして期待されたジェネイ・アイコやティナーシェですら、チャート上でそこまでのインパクトを残せたわけではありません。

おそらく、その象徴がメアリーJ.ブライジの企画物CDであって、今月リリースの新作がどのような反応があるかわからないけど、少なくとも今年6月に出したサントラはあり得ないほどの大失敗。1年に2作という冒険は素晴らしいのだけど、一方で「企画物だから」という逃げも用意されている・・・メアリーですらそういうリスクを計算しなければいけない状況なわけです。

この前取り上げたジェニファー・ハドソンは、ある意味その解答の一つかなと思います。つまり、PBR&Bとの距離の取り方というか、そのムーヴメントにどこまで乗っかるのか、乗っからないとして、ではどういう方向性を目指すかということです。彼女の場合は、EDMという路線も避け、70年代のディスコ・ソウルへその活路を見出したわけですね。ただし、チャート的には成功しなかった。

では、キーシャ・コールの場合はどうか、という話なわけですね。結論から言うと、やっていることが中途半端というか、これは駄作と言わざるを得ない。彼女の良さが全然伝わらない。そして、彼女がこんなアルバムを作らざるを得なかったいまの時代とは、いったい何なのだろうと考えてしまったわけです。

ということで、さっそく中身をチェックしていきましょう。今回はブックレットがないために詳細がわからないのがツライのですが、分かる範囲で書きたいと思います。

(1)Intro (Last Tango)
タイトルにタンゴとあるけど曲調は全くタンゴではなく、彼女の気怠い歌声が2分以上続くのっけからツライ展開。ただ、驚きなのはコーラスで(おそらく)フェイス・エヴァンスが参加していること。最初この歌声は聞いたことがあるなあと思いながら10秒ぐらい考えて名前が出て来た時には!!ってなったけど、過去作でも共演があるだけに納得。このコーラスで救われる部分があるかなという曲です。

(2)Heat of Passion
こちらも静かなというか、盛り上がりに欠ける感じではあるのだけど、つまりビート感が少なくてPBR&B的な曲調だったりします。そして、メロディーが貧弱。歌詞は別れた(けど離婚してない)夫への思いを歌っていますね。救急車のサイレンが途中で挿入されたり、アウトロで銃声が鳴ったりと、何かと物騒な曲でもあります。前作にも登場したアマデウスに、ジェロル・ウィザード、トロイ・テイラーもプロデュースしています。

(3)N.L.U. feat. 2 Chainz
イントロからケルズ氏の歌声・・・しかし、フィーチャーリングではない。ということは、おそらくサンプリングということでしょうか。ということでネットで調べると、96年の「Baby Baby Baby Baby Baby」の一節を引用しているみたいです。そんなことより、この曲でもフェイス・エヴァンスのアシストがあります。しかし、2チェインズは必要だったのかよくわかりません。これも旦那をディスった感じの歌詞ですが、とらえどころのない曲調です。タイトルもアレだしなあ。

(4)Next Time (Won't Give My Heart Away)
イントロのピコピコのシンセ音が全てと言わんばかりの、リードシングルです。これも浮遊感を前面に出したようなPBR&B的な仕上がりですが、歌唱には彼女らしい歌いまわしも感じられ、そこが救いでしょうか。

(5)Rick James feat. Juicy J
「わたしはリック・ジェイムスよ」と高々に宣言する曲ですが、リック・ジェイムスの曲をサンプリングしているわけではなさそう。ベース音のきいたトラップ調のクラブバンガーといったところでしょうか。正直、あまりピンと来ませんでした。

(6)New Nu
マイク・ウィル・メイド・イットな一曲ですが、これもどうなんでしょう。やはりゴリゴリのヒップホップ調だったりするんですけど、彼の尖った曲に無理にメロディーを当てはめた感があって、歌ものとしては厳しいような気がします。

(7)She
勢いにのるDJマスタードのプロデュース。この曲、歌詞が一部のメディアで話題になりまして、曰く、歌詞に二人の女性が登場するということで、離婚の原因として囁かれている彼女の性的指向(実はレズビアンではないか)を表現しているのではないかと。しかし、彼女はそれに対して、自分自身を愛することがテーマと説明しています。まあ、どっちにしても興味深いのですが。

(8)Believer
スターゲイトがプロデュース、エスター・ディーンがソングライティングで参加の一曲です。アルバムの中では比較的オーソドックスなR&Bかもしれませんが、やっぱりメロディーが弱いかな。

(9)Love Letter feat. Future
マイク・ウィル・メイド・イットな2曲目。フューチャーが参加ということで、例のヨーデル歌唱も披露してますか、型破りなラップも織り交ぜて、なんだかよくわからない感じになってます。

(10)Party Ain't A Party feat. Gavyn Rhone
フィーチャーされているのは男性シンガーですが、彼はいったい何者でしょう。これからの人かな。デュエットの相手としてけっこう頑張っている方だと思いますが。タイトルにパーティーとありますが、曲調はまったくパーティーっぽくなく、王道のR&Bサウンドといった感じです。

(11)Remember (Pt. 2)
最後に用意されていたのは、彼女の代表曲の一つである「I Remember」の続編でした。アコギの音も加わって、ぬくもりを感じさせる仕上がり。アルバムの中で一番彼女らしい歌でしょう。おもいっきり歌ってるし、ドラマティックな展開です。っていうか、なぜこの系統の歌を今作ではもっとやってくれなかったのか・・・と『Just Like You』が好きな身としては思ってしまいました。

全11曲収録ですが、デラックスでは2曲追加になります。

全米初登場9位でかろうじてトップ10入りをしましたが、シングルはどれもチャートインせず。PVがたくさん作られているようですが、あまり功を奏してませんね。

ヒップホップ・ソウルという言い方をいまやしなくなってしまったのだけど、あのジャンルの後継者としての彼女はこのアルバムには存在しないでしょう。特に残念に思えるのはやっぱり「ソウル」の部分を感じられないことかな。サウンド的にはトレンドをかなり意識した作りであることはわかるんだけど、結果的に彼女の魅力がキレイに削ぎ落とされてしまっている・・・そんなアルバムかなという気がします。

アルバムのタイトルが何を意味しているのか、さまざまな推測が成り立つのではありますが、懐古趣味的ではなく、だけど新しい何かを切り開くそんなサウンドを次は期待したいですね。



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