ちょうど、音楽キャリアをスタートしてから20年という節目の年にリリースされた今作ではありますが、20年にしてようやく6作目とは・・・なんとも寡作であります。前回取り上げたキーシャ・コールが10年足らずで6枚のアルバムをリリースしたのとは対照的です。たくさん出せばいいってわけじゃないし、実際には、アルバムのリリースにはレコードディールやプロモーションなどさまざまな条件があるわけで、作ったからといってすんなり出せるというわけでもないんだけど、まあ、ゆっくりながら着実に活動しているという印象ですね。
寡作といえば、同じく90年代半ばにデビューしたブランディーやモニカもそうですね。共通しているのは、子育てとシンガーの両立ということでしょうか。フェイスもご多分にもれず、振り返ると波乱の私生活を送っているわけですが、さまざまな経験や困難が歌へと昇華される姿を見ると、やはりアーティストだなあと思わされます。
急いで付け加えなければいけないのは、これだけマイペースに作品を発表しているフェイスではありますが、彼女のR&Bシンガーとしての特異な位置、その存在感はこの20年に渡り決して揺らぐことはなかったということです(少なくともわたしはそう思います)。今作のタイトルはいみじくも"Incomparable"(比較できない、唯一無二の)なのですが、まさしく、R&B業界においてこれだけ特徴的な、存在感のある声の持ち主はそういるわけではありません(魅惑のソプラノヴォイスですね)。そして、20年の時を経ても、全く衰えることがないというのも驚くべきことでしょう(むしろ成熟している)。
ここ最近の彼女といえば、リアリティ・ショーの『R&B Divas』への出演が話題でしたが、昨年から今作へ向けて動き始めており、今年になってアルバムのタイトルの発表がありました。そして、そのリリースの口火を切ったリードシングルがミッシー・エリオットとの共演ということで、ファンの間で話題を呼びましたね(たぶん)。チャート的にそれほど盛り上がったわけではありませんが、個人的には「キタ~」と思いましたよ。
ということで、いよいよリリースされた彼女のニュー・アルバムを紐解くことにしましょう。今回はほぼ全曲でフェイスがソング・ライティングのみならずプロデュースに関わっています。
(1)Prelude/Thank You Good Night
オルガンの音と牧師?の語りからスタート、そこからホーンの音を加えたズッシリとしたトラックに乗せてフェイスがパワフルなヴォーカルを披露。ゴスペルを意識しつつ、のっけから熱量が高くてビックリ!
(2)Extraordinary
前作および『R&B Divas』にも参加のマイク・シティがプロデュースした、スムーズなR&Bナンバー。フェイスの爽やかなコーラスワークが声の健在を告げるようです。
(3)I Deserve It feat. Missy Elliott & Sharaya J
リード・シングルとなった、アレサ・フランクリン使いの陽性パーティチューン。ミッシーとは意外にも2002年の「Burning Up (Remix)」以来の2回目の共演。まるで、いままでもずっと一緒だったかのように、息のあったコンビネーションを見せています。もう一人のシャラヤーJは、ミッシーのレーベルと契約しているラッパー/ダンサー。そして、プロデュースはデビュー作以来コンスタントにタッグを組んでいるチャッキー・トンプソン。最近あまり名前を聞かなかったので、これも嬉しい限り!
(4)Really Wanna Do
ややレイドバックしたトラックに乗せて、フェイスがこれでもかというぐらいにヴォーカルを重ねた一曲。ちょっとヴォーカルが過剰な気もするけど、難しいトラックなので、これぐらいのコーラスワークが必要だったのかも。
(5)Take Your Time (Interlude)
インタールードではありますが、2分30秒あり、1番のみだけど、メロからフックまで曲としてきっちり成立しています。フックにかけてコーラスがブワーッと湧き上がるのは彼女ならではですね。
(6)Fragile
こちらもチャッキー作、フェイスにしては珍しくヴィンテージ・ソウルの装いのナンバー。ずっしりとギターとホーンが鳴り響きます。ヒップホップをベースとしたアーバンなサウンドの多かっただけに、こういう音への挑戦は意外な気もしますが、きちんとハマっていますね。
(7)Incomparable
アルバムの表題曲はまさかのダンストラック。いや、過去作を振り返ってもクラブ映えするようなダンサブルな曲には何度もトライしているわけで、こういう曲があっても別に驚くべきではないのだけど、アルバムの流れからすると「えっ」と思うような展開にはやはりビックリです。
(8)Ride The Beat (Interlude)
インタールードその2。コーラスワークが主体となった流麗な2分42秒。どことなく90年代のフレイバーもするサウンドです。
(9)Make Love feat. Keke Wyatt
フェイスと同じく『R&B Divas』に登場していたキキ・ワイアットを迎えての女傑デュエット。なぜ、あのメンツからキキが選ばれたのか興味深いところではありますが、歌の相性はバッチリと言っていいでしょう。とにかく、濃いです。「とにかくヤりたいのよ」と二人で歌いまくっています(笑) ちなみに、この曲の冒頭の歌詞は「Won't you come over cause I wanna make love」なんだけど、この歌詞が95年の「Come Over」と似ているのも興味深いですね。
(10)Good Time feat, Problem
ラッパーのプロブレムを迎えて、ヒップホップ色の強いトラックに挑戦しています。雰囲気的には(3)に通じるものがあります。これまでのキャリアから考えるとこういうノリのトラックには全く違和感がないのだけど、アルバムの流れからすると尖った印象を受けますね。
のっけから軽くラップをかますフェイス。だけど、その後何事もなかったかのように、ミディアムテンポの上品なR&Bが展開されます。ストリングスも取り入れて、コーラスも優雅なんだけど、最後になって「いったいあの冒頭のは何だったの」という疑問が…
(12)Ever Go Away (Interlude)
インタールードその3。これは彼女のデビュー作を彷彿させますね。コーラスワークといい、トラックといい。95年作の「Soon As I Get Home」に通じるものがあります。
(13)He Is
なんとジャズミン・サリバンがソング・ライティングとコーラスで参加、逆にフェイスのライティングクレジットがありません。つまり、フェイスがわざわざ彼女に楽曲提供を依頼したということでしょう。それって、すごく特別なことだと思います。自分で書けるのに人に頼んでるんですから。それだけ、ジャズミンの曲が評価されているということ。この曲ではゴリゴリなゴスペルテイストのサウンドに乗せて、「彼」への思いを堂々と歌い上げています。
(14)Paradise feat. B.Slade & Karen Clark-Sheard
アルバムの実質的なラストとなるこの曲のまた意表をつく展開には驚かされます。ゴスペル界の重鎮、B.スレイド姐さん!とカレン・クラークを従えて、アゲアゲなダンスナンバーを披露。制作したマイク・シティは前作に続いて、フェイスにダンサブルなトラックを提供したことになりますね。こちらもダンサブルながらゴスペルの雰囲気を多分に携えており、彼女のルーツで締めくくるという形になります。
(15)Thank You's (Outro)
アウトロでは、アルバムのライナーノーツに書かれるいわゆる「Thank You」を読み上げるような形になっており、いろいろな名前が次から次に出て来ます。
(16)Maybe
蛇足的な一曲。これはなくてもよかったかも・・・
全16曲収録。1時間越えの大作に仕上がっています。
全体を通しての感想としては、やはりフェイス・エヴァンス健在ということに尽きると思います。サウンド的には今回は生音を多く取り入れており、これまでのアーバンなサウンドとは少し距離を取りながら、しかしながら決してR&Bという枠からはみ出すことなく、といった感じ。そして何より、彼女のコーラスワークはR&B業界の中でも屈指のものでしょう。今回もさまざまな形で、その華麗なヴォーカル/コーラスを堪能させてくれます。
今回もインディーからリリースということで、セールス的にはそれほど期待できないとは思いますが、彼女に替わる歌声のシンガーなどいないわけで、今後もマイペースに新作をリリースしてもらいたいですね。
そういえば元ダンナのビギーとのまさかのデュエット『The King & I』なるアルバムを構想中であるとの話が出ていますが、果たして実現するんでしょうかね・・・またパフ・ダディと組むという話であるなら、激アツなんだけど。
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