2014年9月4日木曜日

Sia『1000 Forms of Fear』(2014)

書く機会をいつの間にか逸していましたが、久しぶりにブログ再開します。

たくさんCD買ったし、書きたいネタもいくつもあったのだけど、仕事が忙しすぎてブログなんか書いている暇がないという・・・実情はそんなところです。別に音楽から離れていたわけではありませんよ。

ただ、そんな中でも、「これについては書いておかないと」という作品があって、それがこのシーアの新作です(リリースは7月の初頭でした)。

とにかく、いろいろと衝撃を受けたというか、彼女のシンガーソングライターとしての才能に驚かされたというか。エネルギーをたくさんもらえる音楽だと思いました。

まだ国内盤は出ていないようなので、詳しく知らないという人へ向けて、今回は彼女の新作を紹介していきます。

まずは、シーアとは何者か、ですね。わたしが初めて彼女の声を聞いたのはデヴィッド・ゲッタの「Titanium」を通じてでした。

当初メアリー・J.ブライジが担当するはずだったというこの曲で、彼女はヴォーカルを務めます。そして、EDMブームの波にも乗って、シーアという世界的にはまだ無名のアーティストの個性的な声が、この曲のヒットを通じて世界に紹介されるようになったわけです。もちろん、わたしもそこで初めて彼女の声を聞いたわけですね。ただ、彼女のキャリアを振り返ると、ポッと出の新人ではなく、すでに下積みのある人物であることがわかります。

1975年生まれ、オーストラリアのアデレード出身の彼女は、両親がミュージシャンだったこともあり、幼少からさまざまな音楽に親しみ、自分でも音楽活動をするようになったそうです。10代後半にアシッド・ジャズのバンド"Crisp"を結成し、アルバムを2枚リリース、その後脱退し、ソロ活動へと移行します。1997年に"Sia Furler"名義でデビュー・アルバム『OnlySee』をオーストラリアでリリースするも成功しませんでした。

2000年代に入るとロンドンへ移住し、ソニーのDance Poolというレーベルと契約、『Healing Is Difficult』というアルバムをリリースします。このアルバムの収録曲「Taken For Granted」がUKで初のトップ10ヒットを記録しますが、それ以上の成功には至りませんでした。

その後も、レコード会社を転々としながらアルバムのリリースを続けます。特に2010年にリリースした5作目となる『We Are Born』は地元オーストラリアで多くの音楽賞を受賞するなどして、評価が徐々に高まっていきました。そして、デヴィッド・ゲッタ作でのヒット以降は客演仕事のみならず、ソングライターとしても活躍の場を広げ、クリスティーナ・アギレラ、ニーヨ、リアーナ、ビヨンセ、ケシャ、ケイティー・ペリー、ブリトニー・スピアーズなど、アメリカのトップクラスのミュージシャンの曲を次々と手がけるようになり、一気にその才能を開花させます。実はそのような華々しい活躍の裏に、バセドウ病との闘いやアルコール中毒や自殺未遂など、彼女自身にはさまざまなトラブルがあったのですが、それはここでは置いておきましょう。

そんな中、いよいよ彼女自身がソロ活動を再開させます。しかしながら、そのコンセプトは一筋縄ではいかないもので、アルバムのジャケ写にも象徴されているように、自分自身の顔は一切出すことなく、プロモーション活動においても、敢えて自身が顔を出すことをしませんでした(最初からレコード会社とそのような条件で契約したようです)。裏方として成功したことを逆手に取ったと言えそうです。

いくつかのテレビ番組にシーアは実は登場したのですが、そこで披露されたのは「後ろを向いたまま決してカメラに顔を向けることなく歌う」というパフォーマンス。替りに前に出たのは、プロモーションビデオでも登場したマディー・ジグラーという少女ダンサー。この斬新な演出が、結果的に話題を呼び、プロモーションの効果を発揮することになりました。

このようなパフォーマンスも功を奏して、このアルバム、全米で見事1位を獲得する大ヒットを記録しました。まあ、発売のタイミングがたまたまよかっただけだったりするのですが、この後、リード曲の「Chandelier」もロングヒットを続けていることから、シーアにとって過去最大の大躍進を果たしたと言ってもいいでしょう。

さて、こうしてリリースされたシーアの新作。中身をさっそく見ていくことにしましょう。プロデュースは一曲を除き、全てグレッグ・カースティン(リリー・アレン、ケリー・クラークソン、ピンクなど、女性アーティストのプロデュースを得意としています)が前作から続投、ソングライティングはもちろんシーア自身が行っています。

(1)Chandelier
リードシングルにして、ヒットの方程式が詰め込まれた見事なポップナンバー。リアーナが歌ったらもっとヒットしていたかもしれないけど、このフックの強烈な歌声はリアーナには到底歌いこなせそうにないわけで、これはシーアの歌手としてのアイデンティティを改めて示したものを言えるかもしれません。とにかく、一曲の中でいろいろな歌声が混じっているし、シーアってこんな声出せるんだっていう驚きも感じさせる仕掛けの多い曲です。歌詞はいくつかの解釈が可能で、サビの「シャンデリアからスイングするの~」というフレーズはそれだけ聞くとハイパーなテンションの女性のようですが、その行為の意味付けは、ただ単に「今夜はパッと弾けましょう」なのか「ツライことなんて忘れていまはやり過ごしましょう」なのか明確ではなく、含みを持たせた表現になっています。そこが彼女の上手なところではあります。そして、この曲はPVも非常にインパクトがあり、わずか11歳の見事なまでの身体表現に魅せられてしまいます。

(2)Big Girls Cry
この曲は一転して、ミディアムテンポのバラードなんだけど、これならリアーナでも歌えるよねっていうメロディーラインになっています。こういう狭い音域で印象的なメロディーを生み出すのはとても難しいことで、彼女の才能を感じさせる味わい深い曲だと思います。セカンド・シングルになるという情報もあったのですが、それはなしになったようでちょっと残念ですね。

(3)Burn The Page
こちらがセカンド・シングルになるようです。力強いシーアの歌声で「昨日はもう去ったのだから大丈夫。過去なんて本の中に閉じ込めてページごと燃やしましょう」と悲しみを乗り越えるメッセージが歌われています。サウンド的には(1)に通じるものがあるかもしれません。

(4)Eye of the Needle
この曲の歌詞も含みがある内容で、おそらく失恋の歌なのでしょうが、それが彼女らしいことばで表現されています。そして、敢えてフックではかすれたような声を織り込むことで、シーアらしい曲になっていますね。


(5)Hostage
アルバムの中では異色な、ストレートとも言えるアップテンポなロックナンバー。乾いたドラムの音が特徴的で、こういう縦ノリの曲をやるとは意外ですが、歌詞の内容は爽快な曲調にそぐわぬ浮気がテーマの一曲。

(6)Straight for the Knife
ミディアムテンポのナンバー。タイトルからして何か事件を感じさせるような気がしますが、フックの歌詞は修羅場そのものでしょう。「あなたは迷わずにナイフを手にとった。わたしは死ぬ覚悟ができていた。その刃がキラリと光るのがわたしの目に入った。あなたはガスの栓を全開にし、炎を煌々と燃やした。あなたにはわからないでしょうね、わたしがなぜ火を恐れているのか。あなたがオンナを泣かせる理由が」。DVの現場そのものですね。

(7)Fair Game
メロディーの抑揚が少なく、畳み掛けるように歌われる一曲で、音の数も控えめ。後半に向けて徐々に盛り上がっていく不思議なテイストの楽曲です。

(8)Elastic Heart
この曲だけがディプロのプロデュース曲で、『The Hunger Game: Catching Fire』のサントラが初出。サントラではザ・ウィーケンドがフィーチャーされていますが、アルバムではソロバージョンを収録。ディプロ制作だけあってトラックも個性的。タイトルは「ゴムのような心」という意味で、内容的に失恋の歌だと思いますが、ツライことがあってもゴムのような弾力で跳ね飛ばすと、そんな強い心を表現しています。

(9)Free The Animal
ノリのいい楽曲ではありますが、歌詞の内容は非常に怖いw 「死ぬほどあなたを愛している」というのはわかるんだけど、「わたしを殺して」「わたしを爆破して」「わたしの首と切り落として」とかになると、歌詞の内容が激情的過ぎてどういってよいのやら・・・狂気に満ちた内容です。

(10)Fire Meet Gasoline
ここでの「炎」はメタファーなのかどうなのか、こちらも「わたしといっしょに今夜燃えましょう」と破滅的な恋愛とも取れる歌詞の内容です。シーアの実際の恋愛事情はわからないですが、こういう激しいラヴソングを書くのは彼女の作風ということなのかな。

(11)Cellophane
アルバムも終盤ということで、暗くて重たい楽曲です。静かなトラックに彼女のエモーショナルな歌声が響き渡る、ちょっとスリリングな展開ではあります。

(12)Dressed In Black
こちらが本当のラストですが、こちらもテンポ感はあるけどヘヴィーでマイナー調の楽曲。この曲もちょっとホラーな感じのする仕上がりですね。


全12曲収録。全体を通して聞くと、ポップでエネルギッシュな曲も多いけど、アルバムのタイトルに現れる「恐怖」というネガティヴな感情を内包した楽曲も多数あって、シーアの作家性が十分に表現された一筋縄ではいかない作品ではないかと思いました。

歌詞については、この記事を書くために改めてじっくり読んでみたのではありますが、非常に想像力を掻き立てられる内容であるとともに、やはりダークな部分もいろいろとあって、そういう面から見るとまたこのアルバムの意味合いが違って見えてくるなあと思います。ただ、サウンドはシーアの魅力的な歌声が相まってどれもスバラシイので、それだけでも聞くに値しますね。

※そういえば、大事なことを言い忘れていましたが、シーアといえばバイセクシュアルであることをカミング・アウトしているシンガーでもありました。今年6月に映画監督の男性と結婚したけどね。



1 件のコメント:

  1. シャンデリアからスイングする(シャンデリアにぶらさがる)という表現には、俗語で“首を吊る”という意味があるそうです。
    薬とアルコールを飲んで首を吊り、鳥のように…siaさんが過去に実行したことですが、そんな暗い内容のMVに11歳のダンサーを使うのはどうかと議論になりつつ、マディちゃんと彼女の母親は出演を快諾したそうです。MV撮影舞台裏のYOUTUBE動画で制作者たちが話していましたよ~。

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