2014年9月9日火曜日

Sam Smith『In The Lonely Hour』(2014)

今年デビューし、いきなり大ブレイクを果たした新生、サム・スミスのデビュー・アルバムを紹介したいと思います。

サム・スミスは1992年生まれ、ロンドン出身の22歳。10代の頃(っていっても最近ですけど)から音楽学校に通い、ジャズ・シンガーにも師事しながら、歌とソングライティングの勉強に勤しんだそうで、初めて曲を書いたのは18歳の時とのこと。

そんな彼が世間で初めて注目されたのは2012年の頃。UKのエレクトロ・デュオ、ディスクロージャーの「Latch」にフィーチャーされ、この曲がUKチャートで11位を記録したことがブレイクのきっかけとなりました。この曲自体今年に入ってから全米でも7位になるなど再注目されているのですが、クールなトラックと彼のぬくもりのある声の組み合わせがリスナーの心をつかんだのかもしれません。

翌年の2013年には、いよいよデビュー・シングルの「Lay Me Down」をリリース。しかし、さっぱりヒットしませんでした。ただ、この年の5月、エメリー・サンデなども手がけるプロデューサー/DJのノーティー・ボーイの「La La La」でフィーチャーされ、こちらは全英1位の大ヒットを記録、この客演仕事で彼自身への注目度が一気に高まることになります。

今年に入ってから、セカンド・シングルの「Money On My Mind」をリリース、これが全英1位に大ヒットを記録し、一気にアルバムリリースへの手がかりをつかみます。そして、今年の5月に本作はリリースされ、全英のみならず全米でも大ヒットを記録することになります(全英1位、全米2位)。

サム・スミスといえば、リリース前後での精力的なプロモーションとともに、あることが話題になりました。それは、彼がゲイであることを告白したこと。フランク・オーシャンほどのインパクトはなかったかも・・・と思いつつ、こうしてまた、ゲイであることを公表しながら活躍の場を広げる歌手が増えたことは、ヲキャマ的には嬉しいことですw

ちなみに、彼は音楽的な影響を受けたアーティストとしてエイミー・ワインハウスを真っ先に上げていますが、同様にホイットニー・ヒューストンやビヨンセ、マライア・キャリーも好きだとのことで、なるほどーって感じですよねw

さて、肝心のアルバムの方ですが、さまざまな恋愛模様が歌われています。ただし、どれも「片思い」とのことで、男性への叶わぬ思いが歌に昇華されたといったところでしょうか。さっそく、中身をみていきましょう。

(1)Money On My Mind
この曲を聴いた時の第一印象は「とてもUKっぽいな」っていうこと。非常にインパクトのある楽曲なんだけど、こういう高速的なビートの楽曲がアメリカから出されることってないよなあとまず思いました。そして、フックの強烈さ。「Money On My Mind」ってフレーズが何度も繰り返されるんだけど、これがかなり狙っているというか、おもしろい作りですよね。最初聴いた時はちょっとびっくりしました(これが徐々にくせになるから不思議なんだけど)。歌詞は、歌をうたうのはお金のためじゃない、歌が好きなんだという率直な思いが綴られ、シンガーとしての立場表明みたいな曲になっています。

(2)Good Thing
ゴージャスなストリングスのイントロから一転、アコギの静かな展開へと流れる2曲目。ビート感は少ないですね。この曲では叶わぬ恋について歌われおり「いいことなんてそんなに長く続かないよね」と、一歩踏み出すのをためらう気持ちが歌われています。わかるわー、相手がノンケだったりしたら余計にw

(3)Stay With Me
大ヒット中のサード・シングルで、ゴスペル調のコーラスも混じった壮大なポップ・バラード。彼の歌声とあいまってとても感動的な曲ではありますが、歌詞といえば、「ハッテン場にいくら行ったって性欲満たすだけで愛なんて手に入れられっこないわよね、わかってるわよ、わかってるけど、だけどいまだけは一緒にいてよ、ね、お願い、寂しいの」(意訳)という、孤独のヲキャマの気持ちを代弁したような内容になっています(爆)

(4)Leave Your Lover
こちらも非常に美しいアコースティックなバラードです。ただただ美しいとしか言いようがない。サム・スミスの歌声に酔いしれることができます。一方、注目なのはこの曲の歌詞で、PVをみるとよりわかりやすいとは思いますが、ある三角関係を描いたものになっています。「あいつと別れてくれよ」と切々と歌われているのだけど、その相手のジェンダーが特定されない形になっていて、これまたヲキャマの切ない気持ちを代弁してくれてる感が満載の一曲だったりしますw

(5)I'm Not The Only One
なんでこんなにせつないのかしらん・・・シンプルで無駄な要素を削ぎ落としたバラード。そして、これもヲキャマの心情をうたった内容ですよ。今度は付き合っている相手が浮気していることを悟ってしまったときの哀しさを歌っています。「わたしのことベイビーって呼んでくれるけど、それってわたし一人だけじゃないわよね」だなんて・・・ああ、ありがちだわよねw ちなみにPVでは夫の浮気を悟った妻という設定でストーリーが展開します。

(6)Told You Now
ここに来て思うのが、1曲目であんなに飛ばしながら、それ以後の楽曲はずっとアコースティックな流れで構成されているということ。この曲でもアコギ主体のサウンドに合わせて、サム・スミスが緩急つけてヴォーカルを披露しています。

(7)Like I Can
ここに来てアップテンポな展開。アデルの「Rolling In The Deep」を彷彿とさせる展開ではあります。畳み掛けるようなフックのフレーズが印象に残ります。

(8)Life Support
ストリングスなどの使い方はこれまでの流れを踏まえた王道なものではありますが、途中でシンセの効果音やホーンなども取り入れアクセントをつけています。歌詞は直球のラヴソングで、ヲキャマ要素も特にない感じです。

(9)Not In That Way
アコギ一本で切々と歌われる恋心。これまた繊細な歌です。そして、この曲のタイトルになっている「Not In That Way」の意味ですね。ここでもヲキャマ的に、「あんたのことが好きなの、でも、ノンケがオンナを好きになるのとはわけが違うのよ」というような意味で解釈しておきましょうw

(10)Lay Me Down
ヒットはしなかったものの、決してスルーできない彼のデビュー・シングル。前半はジャジーなテイストも感じさせつつ、中盤からドラムスが加わって力強くドラマティックな展開へ。「あなたの横にいてもいい?」っていう歌詞から、これまたハッテン場的なシチュエーションを想像してしまうのですが、きっともっとロマンティックな状況を歌っているのでしょう。

全10曲。UK盤ではボートラとして、これに4曲追加されます。過去の客演仕事などチェックすることができますよ。

1曲目のあれは何だったの?というぐらい、アルバム全体を通して聞くとアコースティックでぬくもりのあるサウンドが展開されます。そして、一曲の尺が3分前後と短く、本編は32分しかありません。あっという間に終わってしまいます。

しかし、どれも密度の濃い楽曲であり、よくできた構成だと思います。普遍的なサウンドが志向されており、男性版アデルとの形容も納得ではあります。

いわゆるコンテンポラリーなR&Bというカテゴリーでくくれないけど、ソウル系が好きな人には十分に伝わるものがあるのではないでしょうか。

ヒットするのも納得なアルバムだと思いました。今後の活躍も楽しみです。



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