タンクということでわたしの脳裏にはふと「アニキ系R&Bシンガー」ということばが浮かびました。何と言っても、2001年のデビューアルバムで披露した見事な肉体美(特に上腕二頭筋ね)、あの過剰なまでのマッチョイズムの印象は強烈でしたからね。そして、セカンドでは一度引っ込んだその肉体表現が、5年の時を経たサードでさらにバージョンアップして復活した時の衝撃といったら・・・上半身裸の自身の肉体をジャケ写に用いるアーティストは多くいても(これ自体興味深い現象ではありますが)、あそこまでムキムキなのはタンクをおいて他にいないでしょう。
まさに「アニキ~」と呼びたくなるようなヴィジュアルなのですが、そのヴィジュアルに反して歌は甘くて繊細だったりするから、またそのギャップにやられてしまうんですよね。歌声にそれほど特徴があるわけではないけど(失礼!)、それでも彼に虜になるファンがいるとしたら、そんな要素もあるかもしれません。
急いで付け加えますが、彼はさまざまなアーティストに楽曲を提供する優れたソングライター/プロデューサーでもあります(アリーヤ、ビヨンセ、モニカなど…)。だからこそ、あのムキムキの意味はいったい何なのだろうとわたしは考えてしまうのではありますが、彼が高校時代にアスリートとして活躍していてもともと肉体的に恵まれていたことと、R&Bの一要素とも言えるセックスアピールを強調したイメージ戦略というのが関係あるのではないでしょうか。余談ですが、振り返れば1枚目、3枚目、5枚目と奇数のアルバムで裸を披露しているので、次作ではまた裸のタンクを拝むことができるかもしれません。
さて、「アニキ系~」と言えば、昨年すごいプロジェクトが業界で話題になりました。そう「TGT」(タイリース、ジェニュワイン、タンクの頭文字をとったグループ名)ですよ。肉体的にも素晴らしい三人のアーティストによる夢の共演で(ってすごい括りですが)グラミー賞にもノミネートされるなど、R&Bファンにはたまらない活躍をみせました。
そんなタンク兄の2年ぶりとなるアルバム。シンガーソングライターとしてコンスタントに活動を続ける彼の最新作をさっそくチェックしましょう。
(1)You're My Star
アルバムからのリード曲で、本作中唯一タンクがセルフ・プロデュース。きらびやかなホーン・セクションも冴える上品なアップテンポ曲。コーラスでケリー・ローランドが参加。ザ・ジャクソンズの「Heartbreak Hotel」使いで、オープニングに相応しいノリのいい一曲になっています。歌詞はベタなラヴソングですね。
(2)Nobody Better
イントロを聴いた途端「お、これはもしやファレルか?」と思ったけど、クレジットを見たら無名のプロデューサーによるものでした(爆) シンセの使い方とか前ノメリのリズム、それにファレルが好みそうなメロディーライン・・・そこまで尖ってないんだけど、いろいろと似ているのですよ。まあ、そういう曲にタンクが挑戦するというのがこれまでと違うと言えそうですが。
(3)Dance With Me
ワイクレフの従兄弟として知られるジェリー・デュプレシスによるプロデュース曲が3曲続きます。この曲は昨今リバイバルしつつあるディスコファンクテイストのアップテンポ曲になっていて、ぶっといベース音が印象的。途中でファンキーな間奏もあり、6分強の長尺になっています。
(4)I Gotta Have It
まだまだアップでいきます。こちらはコンガのリズムと力強いビート、カッティングギターが小気味よいダンサブルな一曲。それにしても、こんなにアップで攻めてくるのは今までにない展開だったので、意外な感じがしますね。いい流れだと思います。
(5)Missing You
ジョーの新作にも通じるような、エバーグリーンな古き良きR&Bといった面持ちでしょうか。ミディアムテンポで、ホーンやフルートの音を用いて、普遍的なサウンドを志向したような感じです。
(6)Same Way
ややトーンダウン。ミディアムテンポで出だしはタンクの囁きから。今様のトレイ・ソングスあたりのサウンドを少し意識したような作りでしょうか。後半はギターがワンワン鳴って、プログレッシヴな雰囲気もしますが、本作ではちょっと異色なサウンドですね。
(7)Hope This Makes You Love Me
ここに来てようやくといったところかもしれませんが、ドラマティックなバラードの登場です。シンセも多用していて厚みのあるサウンドではありますが、アルバムの流れから言っても的を射た展開でしょう。この曲ではファルセットも多用していて、ヴォーカルワークは一筋縄ではいかない感じですが、こういう甘くて繊細な歌声を聞かせてくれるのも彼の魅力でしょう。
(8)Stronger
アルバムの表題曲。こちらもバラードですが、ファルセットは使わず地声で力強い歌唱を披露。鳴きのギターも入って、タイトル通り強さを感じさせる一曲になっています。
(9)Thanking You
流麗なピアノから始まり、フックではアコギをかき鳴らしたサウンド。こちらもジェリー・デュプレシスのプロデュースですが、かなりポップな作りの曲だなあと。そしてこの曲も6分越えの長尺です。
(10)If That's What It Takes
アルバムのラストは、ジャジーなテイストの曲。歌いまわしはそれほどジャズを意識したものではないかもしれないけど、メロディーラインもアンニュイな感じで、ジャズならではの気怠い雰囲気の中、アルバムは締めくくられます。
全10曲収録。ノーゲストでボートラもなくシンプルな作り。ただし、一曲の長さは概ね5分を越えており、トータルで52分と決してコンパクトな作りとは言えません。普通のアルバムのボリュームになっています。
これまでのタンクの作品を聴いたことがあるのなら、今作のタンクが挑戦的で意欲的なものであることがわかると思います。いわゆるコンテンポラリーなR&Bという枠をはみ出し、ジャンル横断的なサウンドで構成された本作、いままで彼の作品を聴いたことのない人にもぜひともオススメしたいですね。
それにしても、国内盤が出ないんだよねえ、タンク兄さん。ちょっと寂しいね。
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