今年メジャー・デビューしたR&Bアーティストのなかで、フランク・オーシャンほど話題を集めた人物はいないのではないでしょうか?
まず、さまざまなところで賞賛されているように、この作品の完成度というのがものすごくハイレベル。王道的とも言えるソウルやジャジーな雰囲気をまとうサウンドに、ドレイクなどが展開してきたアンビエントで静謐なダークサウンドを織り交ぜ、彼ならではの内省的でヴァルネラブルな世界観が全面に出たアルバムに仕上がっています。美しいファルセットも武器で、オープニングの(2)Thinkin' About Youからして、鳥肌が立ちそうなくらい繊細な歌を披露していますよ。
彼はLAを拠点とするヒップホップ集団であるOFGWKTA(←いまだにこれの正式名称覚えられない)のメンバーでもあります。途中でさまざまな音を切り取ったサウンドスケープをインタールードとして挿入したり、ラップっぽい歌いまわしを取り入れたりするのは、そうしたクルーの影響もあるのかもしれないですね。いや、いまどきヒップホップの影響を受けていないR&Bなんてあり得ないのだけどねw ただ、ところどころにストリート的なアプローチがあるのも仕掛けがあっておもしろいなあと思う。
さて、彼を話題の人物に仕立てあげた出来事といえば、彼のTumblr上でオープンレターの形で公表された初めて付き合った相手が男性だったというカミングアウトでしょう。いまだにホモフォビアが根強く存在しているとされるブラックミュージック業界(そういうフォビアをラップする人がいまだにいてるからね)で、彼の勇気ある「告白」は多くの反響を呼びました。だけど、それはほとんど好意的なものでした。ビヨンセなど多くのアーティストが彼に賛辞を送ったりしたしね。でも、日本のセクシュアル・マイノリティでこの話題に反応した人ってどれだけいたのかなあ・・・わたしは「オー」って思ったけど、黒人アーティストで自らのセクシュアリティを公表するっていうことがどれだけの意味を持つのかとか、さすがに語れる人はいないみたいで、そこは少し残念かなあと(ならお前が語れって話ですね、はい、すんません)。でも、前から注目はしてたけど、このニュース知って、わたしは余計に彼のファンになりましたよ。
ではそもそも彼がなぜそんなカミングアウトをアルバムリリースの前にしたかと言えば、それはこのアルバムの中に「彼」のことを歌った曲が含まれていたから。たとえば(14)Bad Religionでは、切ない歌声で「彼を振り向かせることなんてできなかった」とか歌っちゃったりしてます。R&Bに恋愛やセックスに関する歌は山ほどあるけど、同性への恋愛について歌った曲ってたぶんほとんどないから、これはスゴイことだと思います(日本でも事情はいっしょだけど)。でも、このアルバムに関していうと恋愛の歌はそもそも少なかったりします。
先述したようにインタールードが入ったりして、アルバムとしてしっかりパッケージされているから本作は流れで全体を聴くのが一番だと思うけど、オススメ曲をひとつ挙げるなら、(5)Sweet Lifeでしょうか。
ファレルとのコラボレーションなのだけど、サウンド聴いてファレルが関与してるって分かる人なんてほとんどいないと思います。きちんと彼の世界観に沿ったサウンドになっているのが素晴らしい。
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