まあ、それは日本語ラップでもいっしょかもしれないですけどね。何言ってるのかよくわからないみたいなの、ジャパニーズ・ヒップホップでもありますよね? なんとなくカッコイイ感じっていうんですかね(そういうのダサさと紙一重だったりしますが)。
ということで、ナズがいかなる意味で偉大なるラッパーなのかということを真の意味で理解するほどの能力がわたしにはないのだけど、間違いなくわたしはナズのラップが好きであり、そして彼の作品が好きなのです。なぜでしょうね?
たぶん、ブレてないから。この作品を聴いてそう思いました。そして、そういう評価をする自分って、なんて保守的なの?とも思ったりします。このアルバムには、いわゆる時流に乗ったイマドキの音は皆無で、悪く言えば10年前の作品でもおかしくないほどクラシカルな面持ちなのです。だけどいま聴いてカッコイイと思えるほどにタイムレスな作品だとも思います。ある意味ベタに、NY的なラップスタイルを貫いているのです(いや、それが何を意味しているのかは難しい問題ではあるのだけど)。
これでいいのだと思いました。わたしはこんな音を聞きたいんだとさえ思いました。だって、イマドキのヒップホップって、サンプリング主体のソウルフルなサウンドとかロウな質感のブレイクビーツとか、そういうのとは違う方法論で展開されてるでしょ? そういうの嫌いじゃないけど、ヒップホップを聴き始めたころにそういうのが「カッコイイもんだ」と思ってしまった自分にとって、そこがもう基準になってしまってるんですよね。そして、その期待に応えるものを今回も提示してきた。ファンとして、うれしい限りですよ。
あと、ナズのラップはいつもタイトですね。意味がわからなくても、スゴイこと言ってる感が伝わってくるんですよね。そこは、ポイントかもしれないですね。
ここで、改めてこのアルバムの情報をお伝えしましょう。
ソロでは4年ぶりとなる通算11枚目のアルバム、7月にリリースされビルボード総合チャートで1位を獲得しています。さすが、と言ったところでしょうか。そして、これがデフ・ジャム最終作でもあります。そういえば、デフ・ジャムからの作品のアートワークは全て黒ベースで統一されていますね。そういうところへのこだわりもナズは実は持っているのです。元嫁のウェディングドレスの一部を使用しているのも話題になりましたね。
プロデューサーには、ナズの作品ではおなじみのサラーム・レミに加え、ノーIDが大きく関与。二人で合計11曲なので、この二人がアルバムのサウンドデザインを形づくっていると言ってもいいでしょう。
ゲストには、リック・ロスや2度めの共演となるメアリーJ.ブライジ(でも、前のやつは没になったんだったね)、アンソニー・ハミルトン、ミゲルにスウィズ・ビーツ、それに故エイミー・ワインハウスとの擬似共演もあります。渋い人選だなと思います。
今回特徴的だと思ったことがひとつあって、それは、ベタなサンプリングのみならずストリングスやクラシックからの引用などもあって、シネマティックな音像が随所に展開されていること。(3)「A Queens Story」やアンソニー・ハミルトンを迎えた(7)「Worlld's an Addiction」などに顕著ですが、聴いているだけで情景が浮かんでくるような、そんなサウンドになっています。
いくつか気になる曲を取り上げておきます。
(5)Daughters
愛娘への思いをラップしています。PVにめっちゃパパな表情のナズが出てきてビックリなんだけど、コーラスの少しほんわかとした雰囲気も手伝って、アルバムの中では力強くもぬくもりのなるナンバーになってますね。
(6)Reach Out feat. Mary J. Blige
メアリーJ.ブライジを迎えての一曲。力強いドラム・ビートにアイザック・ヘイズを組み合わせるという飛び道具がありつつ、晴れやかなメアリーの歌唱が気持ちのいい一曲。
(8)Summer On Smash feat. Miguel & Swizz Beatz
スウィズ・ビーツ制作の一曲。アルバム中盤でひねりを入れてきたって感じで、煽りも含めていかにもスウィズっぽいビートが特徴。ミゲルも参戦してます。
(11)The Don
今年急逝したヘヴィーDが制作に関与した一曲。レゲエシンガーのスーパーキャットの曲をサンプリングした、レゲエ調のトラックが印象的。
(13)Cherry Wine feat. Amy Winehouse
アルバムの目玉と言ってもいいかもしれない、故エイミー・ワインハウスとの共演。エイミーの気だるくも艶のあるジャジーなヴォーカルが夜のおしゃれな雰囲気を醸しだしてますね。
トータルで見るとサウンド的には、いろいろなアプローチがあって、単調になってないから、聴きやすいと思いました。シンガーの使い方もツボを心得ているしね。次はどこのレコード会社に移籍するのかわからないけど、これからもベテランらしく、堂々とした作品を送り出し続けて欲しいです。
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