2014年9月26日金曜日

Tank『Stronger』(2014)

タンクの通算6作目となる新作を今回は紹介しましょう。

タンクということでわたしの脳裏にはふと「アニキ系R&Bシンガー」ということばが浮かびました。何と言っても、2001年のデビューアルバムで披露した見事な肉体美(特に上腕二頭筋ね)、あの過剰なまでのマッチョイズムの印象は強烈でしたからね。そして、セカンドでは一度引っ込んだその肉体表現が、5年の時を経たサードでさらにバージョンアップして復活した時の衝撃といったら・・・上半身裸の自身の肉体をジャケ写に用いるアーティストは多くいても(これ自体興味深い現象ではありますが)、あそこまでムキムキなのはタンクをおいて他にいないでしょう。

まさに「アニキ~」と呼びたくなるようなヴィジュアルなのですが、そのヴィジュアルに反して歌は甘くて繊細だったりするから、またそのギャップにやられてしまうんですよね。歌声にそれほど特徴があるわけではないけど(失礼!)、それでも彼に虜になるファンがいるとしたら、そんな要素もあるかもしれません。

急いで付け加えますが、彼はさまざまなアーティストに楽曲を提供する優れたソングライター/プロデューサーでもあります(アリーヤ、ビヨンセ、モニカなど…)。だからこそ、あのムキムキの意味はいったい何なのだろうとわたしは考えてしまうのではありますが、彼が高校時代にアスリートとして活躍していてもともと肉体的に恵まれていたことと、R&Bの一要素とも言えるセックスアピールを強調したイメージ戦略というのが関係あるのではないでしょうか。余談ですが、振り返れば1枚目、3枚目、5枚目と奇数のアルバムで裸を披露しているので、次作ではまた裸のタンクを拝むことができるかもしれません。

さて、「アニキ系~」と言えば、昨年すごいプロジェクトが業界で話題になりました。そう「TGT」(タイリース、ジェニュワイン、タンクの頭文字をとったグループ名)ですよ。肉体的にも素晴らしい三人のアーティストによる夢の共演で(ってすごい括りですが)グラミー賞にもノミネートされるなど、R&Bファンにはたまらない活躍をみせました。

そんなタンク兄の2年ぶりとなるアルバム。シンガーソングライターとしてコンスタントに活動を続ける彼の最新作をさっそくチェックしましょう。

2014年9月19日金曜日

Jennifer Lopez『A.K.A.』(2014)

ジェニファー・ロペスの8枚目となるオリジナル・アルバムです。あまり日本語で取り上げているサイトがないので、今回はこの作品をレビューしたいと思います。

言うまでもなく、ジェニファー・ロペスといえばさまざまな映画への出演経験(もちろん主演多数)のある大女優であるとともに、音楽業界においてもコンスタントにアルバムをリリースしヒットを飛ばすシンガーであります。アーティストがが映画に出るパターンは幾多あれど、始めから両軸あって活動を続けられる人はアメリカでも稀であり、彼女の特異な立ち位置を示していると思います。

そんなJ.LOの最近の音楽業界での動きを少し振り返っておきましょう。

近年の彼女の大ヒットといえば「On The Floor feat. Pitbull」ですね。音楽性的にはR&B/ヒップホップを主軸にして時にラテンフレイバーの楽曲を制作するというのがこれまでの彼女だったわけですが、この曲では大胆にEDMを取り入れ、誰もが知る「ランバダ」のサンプリングとともに、新たな地平を開いたと言えます。

この曲のヒットを受けてリリースされたアルバム『LOVE?』(これも何度も延期を繰り返しレコード会社を移籍してようやくリリースされたという作品でした)では、いままでになくダンサブルなサウンド満載の弾けたJ.LOを堪能することができました。かつてジャネット・ジャクソンのバックダンサーを務めたこともあるとのことですが、パフォーマンスでも40代とは思えぬキレのあるダンスを披露してまだまだ現役であることをアピールしていましたね。

そんな彼女ですが、昨年には新たにキャピトル・レコードと契約を結び、新作へ向けてのレコーディングを続けてきました。その第1弾となったシングル「Live It Up」は、レッドワン制作のEDMチューンでクラブヒットはしたけどチャート的には盛り上がらず、今作にも残念ながら収録されていませんが、逆にそのことが今作の方向性を定めたのでしょう。事前情報でR&Bサウンドへの回帰が謳われ、フタを開けてみれば確かに従来の彼女の延長にあるアーバンなサウンドになっていました。あれだけブームに乗っかったEDMとは一度別れを告げたわけですね。

ということで、さっそく内容にうつっていきたいと思います。

2014年9月11日木曜日

Ariana Grande『My Everything』(2014)

アリアナ・グランデの約1年ぶりとなるセカンド・アルバムです。去年このブログでデビュー作を取り上げてから1年、こんなに早く次作のレビューをするとは思いもしませんでした!

それにしても、スター街道まっしぐらですね。現在21歳ということで、アーティストとしても勢いのある時期だと思いますが、このハイペースでのリリースはもしやポストリアーナ的なポジションを狙っているのかと思わせるほどです。普通、こんなに早いインターバルでアルバムを出しませんからね。

そして、今年に入ってから来日も果たしていて、キュートなルックスも相まって日本での知名度も着々と上げつつあるのが素晴らしい。リアーナよりは確実に日本受けがいいだろうとは思いますが、押さえるところを押さえているのはさすがですw

アリアナちゃんのここ最近の動向を振り返っておきましょう。今年の1月には早くも次のアルバムに向けて動き出しているとの情報があり、実際に4月下旬にはイギー・アゼリアと組んだリードシングル「Problem」を発表、これがいきなりの大ヒットになります。全米チャートで見事2位を獲得、イギー・アザリアの「Fancy」がヒットしていたタイミングでもあり、この時機を得たコラボで一気に流れをつかみます。

そして、このヒットの勢いを保ったまま、次にセカンド・シングルとして「Break Free」を投下、こちらもいま勢いのあるDJ、Zeddとのコラボレーションで全米4位を記録します。さらには、ジェシー・J、ニッキー・ミナージュとのコラボである「Bang Bang」も同時期にリリースされ、こちらも全米4位のヒットとなります。

短期間でこれだけヒットチャートの上位にシングルをランクインさせるのは並大抵のことではなく、彼女の勢いを感じさせる出来事だと思いますが、この勢いのままにリリースされたのがセカンド・アルバムということになります。

では、さっそく中身をみていくことにしましょう。

2014年9月9日火曜日

Sam Smith『In The Lonely Hour』(2014)

今年デビューし、いきなり大ブレイクを果たした新生、サム・スミスのデビュー・アルバムを紹介したいと思います。

サム・スミスは1992年生まれ、ロンドン出身の22歳。10代の頃(っていっても最近ですけど)から音楽学校に通い、ジャズ・シンガーにも師事しながら、歌とソングライティングの勉強に勤しんだそうで、初めて曲を書いたのは18歳の時とのこと。

そんな彼が世間で初めて注目されたのは2012年の頃。UKのエレクトロ・デュオ、ディスクロージャーの「Latch」にフィーチャーされ、この曲がUKチャートで11位を記録したことがブレイクのきっかけとなりました。この曲自体今年に入ってから全米でも7位になるなど再注目されているのですが、クールなトラックと彼のぬくもりのある声の組み合わせがリスナーの心をつかんだのかもしれません。

翌年の2013年には、いよいよデビュー・シングルの「Lay Me Down」をリリース。しかし、さっぱりヒットしませんでした。ただ、この年の5月、エメリー・サンデなども手がけるプロデューサー/DJのノーティー・ボーイの「La La La」でフィーチャーされ、こちらは全英1位の大ヒットを記録、この客演仕事で彼自身への注目度が一気に高まることになります。

今年に入ってから、セカンド・シングルの「Money On My Mind」をリリース、これが全英1位に大ヒットを記録し、一気にアルバムリリースへの手がかりをつかみます。そして、今年の5月に本作はリリースされ、全英のみならず全米でも大ヒットを記録することになります(全英1位、全米2位)。

サム・スミスといえば、リリース前後での精力的なプロモーションとともに、あることが話題になりました。それは、彼がゲイであることを告白したこと。フランク・オーシャンほどのインパクトはなかったかも・・・と思いつつ、こうしてまた、ゲイであることを公表しながら活躍の場を広げる歌手が増えたことは、ヲキャマ的には嬉しいことですw

ちなみに、彼は音楽的な影響を受けたアーティストとしてエイミー・ワインハウスを真っ先に上げていますが、同様にホイットニー・ヒューストンやビヨンセ、マライア・キャリーも好きだとのことで、なるほどーって感じですよねw

さて、肝心のアルバムの方ですが、さまざまな恋愛模様が歌われています。ただし、どれも「片思い」とのことで、男性への叶わぬ思いが歌に昇華されたといったところでしょうか。さっそく、中身をみていきましょう。

Marsha Amrbosius『Friends & Lovers』(2014)

マーシャ・アンブロジウスの待望のセカンド・アルバムを今回は取り上げたいと思います。

「待望の」と書いたけど、前作から3年というブランクはアメリカの音楽事情を考えると決して長いとは言えないでしょう。ただ、すでに2年前に次のアルバムからのシングルとして「Cold War」という曲を発表しており、その後ニーヨを迎えての「Without You」の発表もあったことから(いずれも残念ながら今作未収録)、リスナーとしてはそれなりに待たされたことにはなるわけです。

はっきり言って、先行シングルがどれもヒットしなかったわけで、これ以上待ってもしょうがないから出したんだとは思うんですよね。ただ、確かに前作からは「Far Away」がヒットしたとはいえ、もともとそういう売れ線のアーティストではないとも言えるので、まあ、とにもかくにもアルバムをリリースしてホッといったところかもしれません。

ところで、マーシャ・アンブロジウスとは何者かみたいな話を今更するのはなんだかなあと思うんですが、R&Bフリークじゃないとなかなか知らないかもしれないので簡単におさらいしておきます。

イギリスのリヴァプール出身のマーシャは、2000年代に同郷のナタリー・スチュワートと"Floetry"を結成し、アメリカで活動します。アルバム2枚とライヴ盤1枚をリリース、いわゆるネオソウル系のサウンドを志向しながら、歌とポエトリー・リーディングという例をみない組み合わせで注目を集めます。しかし、グループはその後事実上の解散、二人はソロとしてのキャリアを歩むことになります。

マーシャは、ソングライターとしてアリシア・キーズなどと仕事をいっしょにした他に、一時期ドクター・ドレーのアフターマスと契約していたこともあり(結局リリースできずじまいの塩漬けパターンではありましたが)、ヒップホップアクトとの共演も多く果たします。ソロシンガーとしても着実に地を固めていったわけですね。

そんな中、2011年にソロ第1作目となる『Late Nights & Early Mornings』をリリース、いきなり全米2位のヒットを飛ばすことになります。このアルバム、一言でいうとエロいんです。スロージャムが主体の非常に官能的な作品で、マーシャの歌声がときにまるで喘ぎ声のように聞こえたりする、すごくアダルトな仕上がり。トラックは生音主体で、時流とか関係なくやりたいことやってます感が伝わる、ソロ作に相応しい内容でした。

そのマーシャのソロ第2作なわけですが、この口唇ドアップのジャケ写が物語るように、今回も官能的な作風を堪能できそうです。すでに37歳のマーシャなので、どんだけアダルト路線で攻めてきても驚きはしないわけですが、優れたソングライターでもある彼女がセカンドでどんな歌声を聞かせてくれるのか・・・さっそく、中身にうつるとしましょう。

2014年9月4日木曜日

Sia『1000 Forms of Fear』(2014)

書く機会をいつの間にか逸していましたが、久しぶりにブログ再開します。

たくさんCD買ったし、書きたいネタもいくつもあったのだけど、仕事が忙しすぎてブログなんか書いている暇がないという・・・実情はそんなところです。別に音楽から離れていたわけではありませんよ。

ただ、そんな中でも、「これについては書いておかないと」という作品があって、それがこのシーアの新作です(リリースは7月の初頭でした)。

とにかく、いろいろと衝撃を受けたというか、彼女のシンガーソングライターとしての才能に驚かされたというか。エネルギーをたくさんもらえる音楽だと思いました。

まだ国内盤は出ていないようなので、詳しく知らないという人へ向けて、今回は彼女の新作を紹介していきます。

まずは、シーアとは何者か、ですね。わたしが初めて彼女の声を聞いたのはデヴィッド・ゲッタの「Titanium」を通じてでした。

当初メアリー・J.ブライジが担当するはずだったというこの曲で、彼女はヴォーカルを務めます。そして、EDMブームの波にも乗って、シーアという世界的にはまだ無名のアーティストの個性的な声が、この曲のヒットを通じて世界に紹介されるようになったわけです。もちろん、わたしもそこで初めて彼女の声を聞いたわけですね。ただ、彼女のキャリアを振り返ると、ポッと出の新人ではなく、すでに下積みのある人物であることがわかります。

1975年生まれ、オーストラリアのアデレード出身の彼女は、両親がミュージシャンだったこともあり、幼少からさまざまな音楽に親しみ、自分でも音楽活動をするようになったそうです。10代後半にアシッド・ジャズのバンド"Crisp"を結成し、アルバムを2枚リリース、その後脱退し、ソロ活動へと移行します。1997年に"Sia Furler"名義でデビュー・アルバム『OnlySee』をオーストラリアでリリースするも成功しませんでした。

2000年代に入るとロンドンへ移住し、ソニーのDance Poolというレーベルと契約、『Healing Is Difficult』というアルバムをリリースします。このアルバムの収録曲「Taken For Granted」がUKで初のトップ10ヒットを記録しますが、それ以上の成功には至りませんでした。

その後も、レコード会社を転々としながらアルバムのリリースを続けます。特に2010年にリリースした5作目となる『We Are Born』は地元オーストラリアで多くの音楽賞を受賞するなどして、評価が徐々に高まっていきました。そして、デヴィッド・ゲッタ作でのヒット以降は客演仕事のみならず、ソングライターとしても活躍の場を広げ、クリスティーナ・アギレラ、ニーヨ、リアーナ、ビヨンセ、ケシャ、ケイティー・ペリー、ブリトニー・スピアーズなど、アメリカのトップクラスのミュージシャンの曲を次々と手がけるようになり、一気にその才能を開花させます。実はそのような華々しい活躍の裏に、バセドウ病との闘いやアルコール中毒や自殺未遂など、彼女自身にはさまざまなトラブルがあったのですが、それはここでは置いておきましょう。

そんな中、いよいよ彼女自身がソロ活動を再開させます。しかしながら、そのコンセプトは一筋縄ではいかないもので、アルバムのジャケ写にも象徴されているように、自分自身の顔は一切出すことなく、プロモーション活動においても、敢えて自身が顔を出すことをしませんでした(最初からレコード会社とそのような条件で契約したようです)。裏方として成功したことを逆手に取ったと言えそうです。

いくつかのテレビ番組にシーアは実は登場したのですが、そこで披露されたのは「後ろを向いたまま決してカメラに顔を向けることなく歌う」というパフォーマンス。替りに前に出たのは、プロモーションビデオでも登場したマディー・ジグラーという少女ダンサー。この斬新な演出が、結果的に話題を呼び、プロモーションの効果を発揮することになりました。

このようなパフォーマンスも功を奏して、このアルバム、全米で見事1位を獲得する大ヒットを記録しました。まあ、発売のタイミングがたまたまよかっただけだったりするのですが、この後、リード曲の「Chandelier」もロングヒットを続けていることから、シーアにとって過去最大の大躍進を果たしたと言ってもいいでしょう。

さて、こうしてリリースされたシーアの新作。中身をさっそく見ていくことにしましょう。プロデュースは一曲を除き、全てグレッグ・カースティン(リリー・アレン、ケリー・クラークソン、ピンクなど、女性アーティストのプロデュースを得意としています)が前作から続投、ソングライティングはもちろんシーア自身が行っています。