2014年1月16日木曜日

Eminem『The Marshall Mathers LP2』(2013)

昨年一年を振り返って、やっぱり難しいなあと思うことがあって、それはヒップホップのアルバムについて語ること。確かに何枚か取り上げたけど、やっぱり歌モノの方が比較的書きやすいんですよね。だから、あんまり取り上げていない。

実際のところ、普段聴くアルバムとしてもR&B系の方が多いということもあって、購入はしていてもレビューするまではいかないというがのが実情かもしれません。まあ、書きたいと思わせる作品に出会えなかったというだけかもしれませんけどね。

ヒップホップ系への関心が個人的にはやや薄れつつあるのは一面としてはあるかもしれませんね。そういえば、せっかく期待して買ったのにほとんど聴いてないアルバムってのがあったりしますからね(汗)

ただ、作品自体の好き嫌いの問題はあるにしても、ヒップホップを取り上げるのが難しい理由っていうのは別にあって、要は前にもどこかで書いたけどラップって理解するのが大変なんですよ。いまじゃ、ネットで検索すればリリックの書き起こしなんてすぐに見つかったりするのだけど、それ読んだところで「これどういう意味?」みたいのたくさんあるわけです。

わからないなら対訳ついている国内盤買えばっていう話ではありますが、実際にライナーノーツってマジマジ読んだことないんですよね。どうにも、わからないなりに自分で訳した方がなんとなく納得できる、という困ったちゃんでして(だってあの手の対訳ってさあ・・・)。

もちろん、一つのやり方としては音楽的な側面だけ取り上げたら済むのだけど、なんかそれだと、なんでラップ聴いてんの?って話ではあるのでね。書くにしてもどこまで踏み込むのかというのは、悩ましい問題だったりします。

さて、閑話休題。エミネムですよ。

もちろん、期待に胸膨らまして、この13年ぶりの続編を手にしたわけです。が、アルバムのブックレットを見て仰け反りました。珍しくリリックが全て掲載されているのだけど、あまりにも文字の量が多すぎて! この圧倒的なラップこそがエミネムそのものなのではあるけど、これを全て解読せよと言われたら泣きそうになります。

ただですね、まあそれだけ語り甲斐のあるアルバムではあると思うのです。当然のごとくヒットしてますし、スルーするのもあれなので、今回はこの大作に挑もうと思います。


(1)Bad Guy
うおー、のっけから7分もあるぞ! おそろしや~。でも、実はPart1とPart2に分かれていて、二つを一つに合わせた感じ、トラックも途中で変わります。後半のストリートランナー制作のトラックの方が好きだけど、どちらもややシリアスながら王道的なトラックで、エミネムらしいチョイスという感じがします。にしても、歌詞を読みながらラップを聴いてみたのだけど、何について歌っているのか全く理解できない・・・自分の貧困な英語力を怨みたいです。ちなみにwikipediaで調べると、歌詞の内容は大ヒット曲「Stan」の続編的な内容で、マシュー・ミッチェルという架空のキャラクターによるストーリーテリング的な歌詞になっているらしい。あるサイトで和訳も紹介されていたのですが、それ読んでもよくわからなかったな・・・こういうタイプのラップはエミネムの真骨頂だと思うけど、個人的には好みではないということですねw

(2)Parking Lot (Skit)
1分弱のスキット。銃声とサイレンが響く、映画の一コマのような・・・

(3)Rhyme or Reason
なんとも懐かしい音。サンプリングされている曲が何かすぐに当てられないのだけど、確かに聴いたことがあるという、そんなオールディーズなサウンド(※ゾンビーズの曲だそうです)をほぼまる使いし、今作の特徴であるオールド・スクール回帰の雰囲気を演出しています。そして、プロデュースはリック・ルービン! この巨匠を担ぎだしたというはのさすがですね。フックでは替え歌も披露(彼の歌声ってイマイチなんだけどな)。歌詞は「オレがいる限りヒップホップは死にはしない」などのオレ様語りと父親への言及(というかヘイト)が交じり合った内容になっています。

(4)So Much Better
エミネムとおなじみルイス・レストが共同制作した、ドスの効いたピアノがオドロオドロしいエミネムらしいトラック。ラップでは、擬音や単語の繰り返しなどのテクニックを活用したインパクトのあるフレーズや、ジェイZの「99 Problems」からの引用などラップファンならニヤリとする一節も登場しますね。個人的には"I'll never say the word L-word again Lo-Lo-Lo-Lo...lesbian"っていうラインが気になります。「Loveなんてことば言わないぜ。ラ・ラ・ラ・ラ…レズビアン~」って異様にテンション高くエミネムが発するんだけど、ホモフォビックな歌詞で批判を受けてきた彼だけに、こういうの聞くと何かいまだにくすぶるものがあるのかあと思わせますね。

(5)Survival
元々「Call of Duty: Ghosts」というゲームのために制作された楽曲で、後にシングルとしてリリースされています。フックではリズ・ロドリゲスという女性シンガーをフィーチャーしていますが、スカイラー・グレイと聞き間違えそうなほど似ているw トラックはギターが響き渡るロック調になっていて、畳み掛けるようなエミネムのラッピングと相性抜群。歌詞は、このゲーム(すなわちヒップホップ)は、生きるか死ぬかの生存競争、その中で生き残るのはオレだぜ、と巧みなワードプレイを交えてラップしたもの。戦闘モード全開のエミネムです。

(6)Legacy
明らかに「Stan」を意識したような感じ、雨音に切ない女性の歌声(ポリーナというシンガーが担当)がのっかった、哀愁のただよう静かなトラック。「オレは空がいまにも落ちてくるって考えるようなタイプの子供だった」というフレーズから始まり、エミネムは暗い子供時代を振り返っています。彼にしては珍しいタイプの楽曲かもしれないですね。

(7)***hole feat. Skylar Grey
前作にも参加したアレックス・ダ・キッドが制作、力強いドラムビートにのせてエミネムも小気味良いリズムでラップを繰り広げていきます。スリリングな展開! そしてフックはスカイラー・グレイ。意外にもエミネムのアルバムでは初共演になります。歌詞の中にはGLAADへの言及があります。かつてのホモフォビックな歌詞に対して批判したLGBTの団体を名指してディスっているわけですが、自分の蒔いた種なのにまだ恨み持っているというのがなんとも。

(8)Berzerk
アルバムからの先行シングル。リック・ルービンがプロデュース、ビースティ・ボーイズを思わせる80年代のヴァイブスのトラック、ヒップホップ創世記へのオマージュになっています。ところで「berzerk」って単語の意味がすぐに理解できなかったのだけど、調べたら「凶暴な人」っていう意味だそうです。そういえば「ベルセルク」って漫画ありましたよね。

(9)Rap God
この人がラップ神宣言しても、誰も文句言わないんじゃないですか? トラックは6分もあって、しかも無名のDVLPという人のプロデュースで、それほどカッコ良い音とも思えないんだけど、とにかくエミネムのラップが圧巻過ぎて、それがこの曲の全てといっていいでしょう。

(10)Brainless
エミネムとルイス・レストの手によるダークなトラック。流れ的にもあまり強烈な印象がなく、ちょっと捨て曲な感じがします。しつこいようだけど、"Hopefully you little homos get over your fears and phobias. It's okay to be scared straight, they said I provoke queers"なるラインも登場しますね。

(11)Stronger Than I Was
こちらもエミネムとルイス・レスト。テンポダウンして、前半はエミネムがとぼとぼと歌い、後半で畳み込むようなラップという構成。あまり彼の歌声は好きではないのでおもしろくないのだけどね。

(12)The Monster feat. Rihanna
わー、なんてセルアウトなの、というのが最初に聴いたときの率直な感想でした。売れるに決まってるでしょ、これ、っていうね。リアーナとのコンビ、これで4回目でしょうか。にしてもリアーナに歌わせてる"I'm friends with the monster that's under my bed. Get along with the voices inside my head"って、これもエミネムっぽい世界観だよね。シゾフレニックな感じです。

(13)So Far...
リック・ルービン作。ギターとスクラッチが炸裂する、オールド・スクールなフレイバー。彼の参加は本作の鍵になっていますね。サンプリングとか過去作の引用とか、いろいろな要素を組み合わせたナンバーです。

(14)Love Game feat. Kendrick Lamar
引き続きリック・ルービン作。そして本編では唯一のゲスト・ラッパーとして登場するのがケンドリック・ラマー。エミネムに並ぶ技巧派のラマーとの強烈なコンビ、内容がわからなくても聞いているだけでスリリングな展開であることがわかります。

(15)Headlights feat. Nate Reuss
ファンのフロントマン、ネイト・ルイスが哀愁のヴォーカルを披露する一曲。エミネムは母親への心情をラップしています。

(16)Evil Twin
アルバムラストが全然ラストっぽくなくて、ダークな曲調ながら怒りに満ちたラップが6分にわたり続きます。いろんな有名人への言及があります。いや、なんかスゴイ終わり方だなあと。


全16曲。デラックス版は2枚組で5曲追加。毎度のことながら、すごいヴォリュームですね。言いたいことがこれでもかとあるのでしょう。

正直、こんなに記事書くのに時間かかったことありません(汗) ラップの内容がワードプレイの連発で、解説の類を頼りにしてもなかなかすんなり頭に入ってこなくて苦戦しました。『The Marshall Mathers LP』を踏まえた内容があるのも、つまずいた原因かもしれません。まあ、いまでも十分にわかっているわけではないのだけど、これだけの物量のことばで攻めてくるっていうのも彼らしいと思います。

新機軸としてリック・ルービンを迎えてオールド・スクール回帰な曲を披露しているのがよかったと個人的には思います。いつものダークな曲調だけじゃないし、変にトレンドに流されることもない。40過ぎてもブレることがないのが、いまなお人気のヒミツなのかなあと思いますね。ドクター・ドレーが裏方に徹したというのはちょっとさびしいかもしれないけど。

ラップはとにかく難しいのだけど、サウンドだけでも十分に楽しめると思います。さすがのエミネム、としか言いようがないですね。



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