2014年10月13日月曜日

Jennifer Hudson『JHUD』(2014)

ジェニファー・ハドソン、通算3枚目のアルバムを今回は取り上げます。

ですが、このアルバムの紹介をする前に、ビルボードの記事の中に興味深い文章があったので引用することから始めたいと思います。

ビルボード曰く、「女性R&Bシンガーにとっては不遇の時代である。現在[この記事の執筆時点]のR&B/ヒップホップチャートでトップ25にエントリーしているのはわずかにティナシェ、ビヨンセ、ジェネイ・アイコだけ」と。男性シンガーとラッパーがチャートを席巻するというのが、いまの全米のチャートであるというわけです。

つまり、そういう状況において彼女は新作をリリースしないといけなかった、ということです。音楽をめぐる状況が一定であるはずはなく、女性シンガー大活躍の時代も過去にはあったわけですが、、ただ、いまはそうなっていないということですね。

言われてみれば「なるほど」と思うと同時に、このジェニファー・ハドソンも、チャートアクションでは確かにかなり苦戦を強いられているなあということを思い起こしました。

まず本作へ向けた動きをみると、リードシングルとして昨年9月に発表された「I Can't Describe」はファレル作ということで話題にはなりましたが、R&B/ヒップホップチャートで29位どまり。今年に入って、ティンバランド作「Walk It Out」で反転攻勢を試みるも46位とチャート的には奮いませんでした。

それでも、アルバムがリリースされたのは喜ばしいことではありますが、その影響もあって、今作も全米初登場10位と過去の彼女の実績からすれば、かなり落ち込んだ結果になりました。

ただ、それと作品の質は別物。70年代の音楽にインスピレーションを得たというこの新作をさっそくチェックしたいと思います。

(1)Dangerous
アルバムのオープニングは陽性のアップテンポなナンバー。「スリルのためにするのよ。たとえそれで死ぬことになっても。あなたが危険な気持ちにさせるの」と、冒険的な恋愛を歌っています。

(2)It's Your World feat. R. Kelly
前作でも楽曲提供しているR.ケリーのペンで、今度はヴォーカルでも参加。後半のかけあいなど、アツい歌声で二人の息もぴったりです。DJテリー・ハンターのプロデュースで、ファンキーなディスコ調のアップテンポなナンバーで新境地を開いています。

(3)He Ain't Going Nowhere feat. Iggy Azalea
本作のセールスポイントでもあるファレルによるプロダクションその①。こちらはベースの音とシンセの音の組み合わせでファレル流のディスコナンバーに仕立てています。ただ、音の数は少なめで、彼女のパワフルな歌声が際立つサウンドに。いまノリの乗っているイギー・アザレアがラップでアシストしています。

(4)Walk It Out feat. Timbaland
デビュー作で一度プロデュースを受けているティンバランドとの再演。セカンド・シングルになります。個人的に今作の中で一番好きな曲なんだけど、チャートでは盛り上がりませんでしたね。この中毒性のあるビートとヴォーカル・ワークは最高だと思うんだけど、どうなんでしょうね。

(5)I Can't Describe (The Way I Feel) feat. T.I.
リードシングルで、ファレル制作その②。こちらもここ最近の彼らしいスムーズなダンス・ナンバーで、彼女らしい伸びやかな歌声がマッチしていると思います。ただ、ヒットポテンシャル的にはそれほど高くないかも、という感じもします。

(6)I Still Love You
UKのゴードン・シティという若手のエレクトロ・デュオの手によるトラックで、70年代のディスコフレイバーを現代風にアレンジしたような面持ち。彼女のヴォーカルもどこか昔のソウル歌手風。アルバムの中では異色ではありますが、コンセプトとしてこれはありでしょう。

(7)Just That Type of Girl
ファレル曲その③。こちらもベース音とピアノの組み合わせによりシンプルなトラックで、(3)と同系統といった感じですね。流れ的にはちょっと地味な印象を受けます。

(8)Bring Back The Music
ここに来てようやくミディアム・バラードが登場。ジェリー・デュプレシスとマリ・ミュージックの共作で、フックではあえて繊細な歌いまわしを披露。ノスタルジックな曲調ですね。それにしても、やっぱり歌うまいなw

(9)Say It
前曲と同じメンツによる作品ですが、こちらはアップテンポに仕上がっています。乾いたギターの音がファンキーな一曲です。

(10)Moan
ラストはピアノ主体のどバラード。2008年に彼女の母親や兄弟が銃殺されるという悲劇に見舞われた彼女ですが、今作ではその悲しみをこの一曲に集約したような形になりますね。アルバムの中で一曲だけ雰囲気が違うのですが、このヴォーカルは圧巻としか言えません。

全10曲収録。デラックス盤も今回はなく、コンパクトな作風でまとめてきました。

全体的にアップテンポな楽曲で構成されており、さらっと聞けてしまうのですが、ノリのいい曲が多くていいと思いました。ただ、レトロテイスト満載ではあるので、ソウルフルでディスコティックなサウンドが好きな人じゃないと、あまりおもしろくないのかなという気もします。

とにかく、歌がうまいのだけど、その歌唱力を持て余すことなく、コンセプトに則ってうまくまとめてきたという感じで、期待に違わぬ出来だと思いました。ただ、サウンド的には時流と離れていることもあり、セールス的に厳しかったのかもしれませんね。



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