2014年6月17日火曜日

Mariah Carey『Me. I Am Mariah...The Elusive Chanteuse』(2014)

マライア・キャリーの通算14枚目となるアルバムです。何というか、これだけのスーパースターなのだから、毎回作品が話題になるのは当然なのではありますが、今回もなかなかに考えさせられる内容でして、レビューするのも大変だなあと思ってしまいました。「なんて素晴らしいの!」と素直に言えればいいんだけど、そうもいかないようでして(汗)

まず、事実から言いましょう。セールス面ではマライア史上もっとも売れていないアルバムということになります。全米初登場3位でしたが、5万8000枚という数字は彼女にとってもっとも低いセールスであり、そして、今後ロングヒットで持ち直すかどうかどうかと言われたら微妙と言わざるを得ない。とにかく、売れていない!

まあ、過去にも何度かコケたことはあるわけで、コケてもタダでは起きない彼女だと信じたいのだけど、しかし、今回のコケっぷりは、ちょっと深刻なのではないかと思ってしまいます。

このセールス不信の背景を探ってみましょう。一つにヒットシングルに恵まれず、アルバムのリリース日を何度も延期したという経緯があります。かろうじて昨年出したミゲルとのコラボシングル「#Beautiful」はヒットしたものの、そのタイミングでうまくアルバムをリリースできず、その後に出したシングルも軒並みコケたこともあり、今回のアルバムリリースはもう「これ以上シングルヒットを待っても仕方ない」という諦めのようなものすら感じさせるものでした。そういえば、タイトルも当初は『The Art of Letting Go』でしたからね。レコード会社の思惑もあったとは思いますが、リスナーからしたら自信のなさの表れと取られても仕方のない対応だったような気がします。

それ以前に、彼女のアーティストとしての旬が過ぎてしまったという見方もできるかとは思いますが、マライア・キャリーの代わりなどいるはずもなく、期待の値がそれほど下がったとは考えにくいことです。まあ、前作の『Memoirs of an Imperfect Angel』も大してヒットしなかったわけだから、セールス的な面ではすでに落ち着いて来ていたと言えるかもしれませんが。

わたしがイケ好かないなあと思ったことを言います。それはこのアルバムタイトルと、ジャケ写です。まず、この長ったらしいタイトルは、彼女の煮え切らぬスタンスを表しているようで、どうにも好きになれません。過去にも自分の名前を冠したアルバムをリリースしたことがありますが、いまさら自己紹介してどうするよ!っていうツッコミを入れたくなります。まあ、それが「elusive」(つかみどころのない)の意味するところかもしれないけど。

そして、ジャケ写です。スタンダード盤では相変わらずボディコンシャスな格好なマライア様なのですが、どうみても修正してるでしょ、っていうね。マライアのFacebook見てると、いろいろな写真流れてくるけど、比べるにこんなに体型細くないのはまるわかりなわけで・・・

こういう言い方したらアレですけど、やっぱりマライアの現在形っていうのを見たいわけですよ。でも、アートワーク一つとっても、どうにも後ろ向きな気がしてしまうんですよねえ。過去の栄光を再び、みたいなね。でも、もうそういうことしている時点でアウトじゃないですか。新しいリスナーを開拓しようという意欲がないんだったら、そりゃそういうところに落ち着くだろうっていうね。

さて、いろいろと書きましたが、肝心なのは何はともあれ音なわけですよ。そして、この部分こそがなんとも悩ましいのですね(笑)

まあ、ウダウダ言っててもしょうがないので、中身にうつっていくことにしますね。今作も全曲マライアがプロデュースに関わっています。

(1)Cry.
一曲目はこれまでに何度も共作しているジェームズ・ライトの手によるもので、ゴスペル風でもあるバラードからスタート。ジェームズ・ライトと言えば、『The Emancipation of Mimi』におけるクラシカルな面持ちの楽曲群(「Circles」「Fly Like A Bird」)が印象的だったけど、今回もその路線を狙ったものと言えそう。いいんだけど、ただ、ヴォーカルワークがちょっと過剰なのが気になります。音に合わせてもっとシンプルに行ったほうがよかったのではと思ってしまったんですけどね。

(2)Faded
マイク・ウィル・メイド・イットな2曲目は、これまたミディアムテンポの地味目なトラックですね。歌詞は別れた人への未練を歌った内容。音色はいまどきな感じもするけど、今ひとつ盛り上がりに欠ける曲です。

(3)Dedicated feat. Nas
ヒット・ボーイ、ダリル・キャンパーがプロデュース、ヒップホップ色の強いトラックで歌詞に中にもオールド・スクールのアーティストへの言及などあり、遊び心を演出しています。ウー・タン・クランの楽曲の中から"Carry Like Mariah"というフレーズをサンプリングして、効果音的に使用しているのも特徴と言えそうです。また、マライアと同じくコロンビア→デフ・ジャムと渡り歩いているナスがラップで参加、こちらもかつてのヒップホップへの言及になっています。

(4)#Beautiful feat. Miguel
昨年発表され、アルバムからのリードシングルとなったミゲルとの共演作。レトロテイストなトラックがほんわかとした雰囲気を醸し出していて、これはマライアにとっては新機軸だったかもしれません。どっちかっていうとミゲル君の楽曲っぽいんだけど・・・

(5)Thirsty
こちらもヒット・ボーイ作。これも遊び心のある音色をあしらった、ヒップホップ色の強い一曲です。ちなみに、リッチ・ホミー・クワンが参加したヴァージョンもありますが、アルバム版はノーラップです。

(6)Make It Look Good
長年にわたるコラボレーターであるジャーメイン・デュプリとブライアン・マイケル・コックスの手による、ゴージャス感のあるミディアムテンポのR&Bナンバー。さりげなくハーモニカでスティーヴィー・ワンダーの御大が参加していたりもします。手堅くもマライアらしいナンバーですね。

(7)You're Mine (Eternal)
ロドニー・ジャーキンス作で、サード・シングルとして発表されました。リミックスではトレイ・ソングスが参加していますが、いずれもヒットチャートでは上位を狙えませんでした。さすがのロドニーだけあって、よくできた曲だと思うんだけど、どうにもこうにも「We Belong Together」と「Touch My Body」を足して2で割ったような感じに聞こえて、新鮮味が感じられなかったのが問題かもしれませんね。

(8)You Don't Know What To Do feat. Wale
デュプリ&コックスの手による作品。出だしからど派手なピアノに合わせてマライアが歌い上げるのでまたもやバラードかと思いきや、途中でディスコティックなアップナンバーへと様変わり! デュプリがこういう感じの作風をやるのは珍しい気もするけど、ディスコ・リヴァイヴァルの流れがあるだけに、それなりに狙ったものと言えるでしょうね。違和感ないです。何言うとんじゃいワーレイもラップで参加してます。

(9)Supernatural
マライア・ジュニアの声を取り入れたドリーミーなR&B。アリシアやビヨンセも同じようなことしてたので、二番煎じ感がどうしても否めないのだけど、母親になってからの初作品なので、これはぜひとも入れたかったのでしょう。歌詞の内容ももちろん、我が子を授かったことの喜びを歌い上げています。

(10)Meteorite
Qティップがプロデュースということでかなり期待していたんだけど、仕上がりを聞いてこれまた驚愕! こちらもディスコティックなサウンドになっています(あまりティップっぽくはないけど)。ただ、音の質感がサンプリングの使い方のせいか、流れ的にちょっと浮いて聞こえる部分もあったりします。ちなみに、音雲にはQティップ自身によるリミックスも公開されています。

(11)Camouflage
ジェームズ・ライトの手がけたバラード。ピアノ一本でマライアが歌い上げています。後半には向けてのヴォーカル・ワークに圧倒されます。こちらも後半はゴスペル風に展開しますね。

(12)Money ($*/...) feat. Fabolous
なぜいまファボラスなのか、という疑問もないわけではないけど、ラップだけじゃなくてフックでも絡んだりして、うまく起用していると思います。そんなことより、この曲もヒットボーイ作なんだけど、今作の最大の収穫はヒット・ボーイ関連の楽曲がどれもインパクトがあってよかったということじゃないでしょうか。この曲でもいい仕事をしていると思います。

(13)One More Try
おなじみのカバーシリーズ。今回はジョージ・マイケルの同名曲。比較的、原曲のアレンジをいかしたプロダクションで、コーラスワークも控えめ、ストレートなカバーになっていますね。

(14)Heavenly (No Ways Tired/Can't Give Up Now)
スタンダード版の実質的なラストであるこの曲、デュプリとコックス作なんだけど、完全にゴスペル仕様の楽曲になっています。ゴスペルシンガーであるジェームス・クリーヴランドの楽曲を引用しており、副題にも彼へのトリビュート作であることが明記されていますね。

(15)It's A Wrap feat. Mary J. Blige
ここからはデラックス版のみの収録。まさかのメアリー姐さんとのデュエットだけど、楽曲自体は前作に収録されていたもの。幻の作品である『Angels Advocate』用に制作された楽曲が、今回こうして日の目を見たわけですね。5年も前の作品なだけにちょっと微妙な気もするんだけど。ちなみに、メアリーよりマライアのほうが年上だったりしますw

(16)Betcha Gon' Know feat. R. Kelly
これまた、『Angels Advocate』に収録予定だったケルズ師匠とのデュエット。ファンにはうれしいボートラかもしれません。

(17)The Art of Letting Go
最後は、セカンド・シングルとしてリリースされたロドニー・ジャーキンス作のバラード。これぞ王道なマライアのバラードといった感じで、ヴォーカルも伸び伸びとしていて申し分ないんだけど、ヒットさせるには何かが足りなかった・・・この曲がもうちょっとチャートアップしていたら、アルバムの印象も変わったんだろうなあ、と思うといろいろ残念な楽曲であります。

デラックス版は全17曲収録です。個人的にメアリーとのデュエットが聞きたかったのでデラックスを選びましたが、それに興味無かったら通常版で十分だと思います。

全体として、決して悪くはないと思います。『Memoirs of an Imperfect Angel』は正直あまり好きになれなかったのだけど、それに比べたらまだしっくり来る感じはあります。それに、ヴォーカルに安定感があるのは好印象でしょう(一時期どうしたの?っていうこともありましたからね)。逆にオーバーワークかなという部分もあって、そこら辺は評価が分かれるところかもしれませんが、年齢的にも声量をキープするのが難しくなってくるはずなので、今回はいいコンディションでレコーディングできたのでしょう。

ただ、『The Emancipation of Mimi』や『E=MC²』の延長にある作風という印象はあって、それ以上ではないといえばそれまでなのかなあという気もします。それに、バラードにゴスペルにディスコにヒップホップに、って色とりどりの楽曲が収録されていますが、どれもこれまでマライアがやってきたことですからね。

だからこそ、悩ましいというか、従来のファンとしてはこれでいいとも言えるし、ただ、作品としての評価になると何かが足りないよねえと言いたくなります。EDMみたいなことを彼女に期待しているわけではないんだけどね。

個人的に、今回はヒット・ボーイとのコラボがよかったと思うんだけど(逆にマイク・ウィルは失敗だったかな)、シングルカットしてヒットするかは微妙かもしれません。

というわけで、いろいろと考えさせられるんだけど、結果的に何かもったいない気がするアルバムだなあというのが、とりあえずの感想です。



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