2014年9月19日金曜日

Jennifer Lopez『A.K.A.』(2014)

ジェニファー・ロペスの8枚目となるオリジナル・アルバムです。あまり日本語で取り上げているサイトがないので、今回はこの作品をレビューしたいと思います。

言うまでもなく、ジェニファー・ロペスといえばさまざまな映画への出演経験(もちろん主演多数)のある大女優であるとともに、音楽業界においてもコンスタントにアルバムをリリースしヒットを飛ばすシンガーであります。アーティストがが映画に出るパターンは幾多あれど、始めから両軸あって活動を続けられる人はアメリカでも稀であり、彼女の特異な立ち位置を示していると思います。

そんなJ.LOの最近の音楽業界での動きを少し振り返っておきましょう。

近年の彼女の大ヒットといえば「On The Floor feat. Pitbull」ですね。音楽性的にはR&B/ヒップホップを主軸にして時にラテンフレイバーの楽曲を制作するというのがこれまでの彼女だったわけですが、この曲では大胆にEDMを取り入れ、誰もが知る「ランバダ」のサンプリングとともに、新たな地平を開いたと言えます。

この曲のヒットを受けてリリースされたアルバム『LOVE?』(これも何度も延期を繰り返しレコード会社を移籍してようやくリリースされたという作品でした)では、いままでになくダンサブルなサウンド満載の弾けたJ.LOを堪能することができました。かつてジャネット・ジャクソンのバックダンサーを務めたこともあるとのことですが、パフォーマンスでも40代とは思えぬキレのあるダンスを披露してまだまだ現役であることをアピールしていましたね。

そんな彼女ですが、昨年には新たにキャピトル・レコードと契約を結び、新作へ向けてのレコーディングを続けてきました。その第1弾となったシングル「Live It Up」は、レッドワン制作のEDMチューンでクラブヒットはしたけどチャート的には盛り上がらず、今作にも残念ながら収録されていませんが、逆にそのことが今作の方向性を定めたのでしょう。事前情報でR&Bサウンドへの回帰が謳われ、フタを開けてみれば確かに従来の彼女の延長にあるアーバンなサウンドになっていました。あれだけブームに乗っかったEDMとは一度別れを告げたわけですね。

ということで、さっそく内容にうつっていきたいと思います。

(1)A.K.A. feat. T.I.
アルバムのタイトルでもある一曲目は、重たいベース音がブンブン鳴り響くヒップホップチューン。ダブステップの要素も入って、とても今を意識したサウンドだと思います。プロダクションはロックスター(Roccstar)という人で、クリス・ブラウンの「Fine China」などを手がけていますが、あまり実績がないみたいなのでこれからの人なのでしょうね。歌詞はJ.Loが「いままでのわたしとは違うのよ」と宣言したような内容。T.I.のラップのアシストも的を射てます。

(2)First Love
セカンド・シングルです。アルバムの中で一番ポップでパワフルなアップテンポ曲で、マックス・マーティンがプロデュースと聞いて納得な仕上がり。歌詞もとても素晴らしくて「あなたが初恋の人だったらよかったのに。だって、あなたが初めての恋人だったら、2人、3人、4人って恋して傷つくこともなかったのに」という内容は、彼女だから「そうだよねえ」と思える説得力があります。

(3)Never Satisfied
一転してゴテゴテのラヴ・バラードです。ポップとR&Bの要素を融合した彼女らしい切り口のサウンドだけど、3曲目からこれかあ・・・と思ってしまいました。ちょっと暗いというか重いかな。

(4)I Luh Ya Papi feat. French Montana
ファースト・シングルで、ヤング・マネーのプロデューサー、ディテイルがプロデュース。ヒップホップをベースにエレクトロ要素を加えたサウンド。とらえどころのない不思議な感触のするトラックで、フックではひたすら「アイ・ルー・ヤ・パピ」の連呼、シンセのループと相まってある種の中毒性を狙った作りになっています。そういえば、前作でも「Papi」って曲がありましたね。このことば気に入ってるのかな? ちなみに、フィーチャーされているフレンチ・モンタナはそれに対して「Mami」と言っています。

(5)Acting Like That feat. Iggy Azalea
これまたダークでヘヴィーなテイストのヒップホップチューンです。(1)と同系のベース音が特徴的で、メロディーも抑揚が少なくクール。歌詞は「なんでそんなことするのよ」と相手の男に詰め寄るような内容。今年大ブレイクしているイギー・アザリアも、J.LoやメアリーJ.のヒット曲名を組み込んだラップで応戦しています。

(6)Emotions
なんとクリス・ブラウンがソングライティングに参加した曲で、タイトル通りJ.Loがエモーショナルに歌い上げるR&Bバラードになっています。これは悪くないと思います。

(7)So Good
ロックスター制作曲。ミディアムテンポのR&Bチューンで、J.Loのちょっと気の抜けたヴォーカルが印象的。

(8)Let It Be Me
スパニッシュ・ギターがベタに哀愁感を漂わせるバラード。こんなにバラードで攻めてくるとは意外なんですけど、この曲はJ.Loのか細い声が功を奏して、切ない仕上がりになっています。ラテンルーツを大切にしている彼女ならではですね。

(9)Worry No More feat. Rick Ross
イントロなしでヴァースから始まる曲で、締りのないメロディーを淡々と歌い続けるJ.Lo・・・何がしたいのかよくわからない。リック・ロスも不用というか、そんなにラッパーに頼ってどうなの?って思うんだけど、いなかったらもっと寂しい感じの曲になってたでしょうね。

(10)Booty feat. Pitbull
スタンダード版のラストは、中近東のフレイバーを加えたダンスナンバー。お祭り番長ピットブルのアシストもあって、ベタに盛り上がりそうな楽曲です。リミックス版ではイギー・アザリアをフィーチャー、45歳と25歳が互いのケツを振り合うという衝撃的なPVも話題になっています。

(11)Tens feat. Jack Mizrahi
ここからはデラックス盤のみ収録曲。(10)と連続するような形のダンサブルなサウンド。この曲ではJ.Lo自身もラップを披露しています。テンション高いです。

(12)Troubeaux feat. Nas
過去にも共演歴のあるナスを迎えた一曲。サンプリングのホーンがアルバムの中では異色ですが、「Jenny from the Block」が好きな人にはたまらないサウンドではないかと思います。かくいうわたしもこのトラックは好きですねw

(13)Expertease (Ready Set Go)
シーアがソングライティングに参加、言われてみればシーアっぽい節回しだなあと思わせる箇所があり、トラックもそれっぽいですね。可も不可もないミディアムテンポの楽曲ではありますが、そういう聞き方をするとちょっとおもしろいかも。

(14)Same Girl feat. French Montana
ラストは、プロモシングルとしてリリースされたナンバー。ゴージャスなオーケストラのサウンドがシリアスな雰囲気を醸し出したドラマティックな一曲。アルバム版ではフレンチ・モンタナをフィーチャー、敢えて間を外したようなクセのあるラップを披露しています。


通常版は10曲、今回とりあげたデラックス版は14曲収録で、国内盤ではさらに2曲追加されています。

全体の感想としては、やっぱりバラードの数が多いのが気になりました。しかも、おもしろくないというか、聞けるやつもあるけどもうちょっと工夫してよみたいなのも同時にあって、それならばアップテンポな楽曲を織り込んだ方がよかったのではないかと思います。どうしても歌唱力(というか声質)の問題というのはありますからね。

あと、現在形のサウンドを取り入れているのはわかるんだけど、そのままやるとどうしてもクールになってしまうので、結果、あまりJ.Loらしくないサウンドが出来上がってしまったのではないかと。もちろん、狙った上でのことだろうけど、ポップさが足りないのがなんともつらいなあと感じました。

今回のアルバム、先行リリースしたシングルがどれもヒットせず、プロモーションの甲斐なく全米チャートは初登場8位、セールス枚数では彼女にとって過去最低の記録となってしまいました。

40代半ばになって、こういうフレッシュなサウンドに取り組む姿勢は十分に評価できると思うけど、一方で新たなファンを取り込むということにまで行かず、このような結果になったのではないかと思います。

再度EDMへ回帰して欲しいとは思わないけど、すでにキャリアを積み重ねた彼女がさらなる進化を続けるために何が必要なのか・・・彼女にとって非常に難しい課題を突きつけられたのかもしれませんね。



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