2014年9月9日火曜日

Marsha Amrbosius『Friends & Lovers』(2014)

マーシャ・アンブロジウスの待望のセカンド・アルバムを今回は取り上げたいと思います。

「待望の」と書いたけど、前作から3年というブランクはアメリカの音楽事情を考えると決して長いとは言えないでしょう。ただ、すでに2年前に次のアルバムからのシングルとして「Cold War」という曲を発表しており、その後ニーヨを迎えての「Without You」の発表もあったことから(いずれも残念ながら今作未収録)、リスナーとしてはそれなりに待たされたことにはなるわけです。

はっきり言って、先行シングルがどれもヒットしなかったわけで、これ以上待ってもしょうがないから出したんだとは思うんですよね。ただ、確かに前作からは「Far Away」がヒットしたとはいえ、もともとそういう売れ線のアーティストではないとも言えるので、まあ、とにもかくにもアルバムをリリースしてホッといったところかもしれません。

ところで、マーシャ・アンブロジウスとは何者かみたいな話を今更するのはなんだかなあと思うんですが、R&Bフリークじゃないとなかなか知らないかもしれないので簡単におさらいしておきます。

イギリスのリヴァプール出身のマーシャは、2000年代に同郷のナタリー・スチュワートと"Floetry"を結成し、アメリカで活動します。アルバム2枚とライヴ盤1枚をリリース、いわゆるネオソウル系のサウンドを志向しながら、歌とポエトリー・リーディングという例をみない組み合わせで注目を集めます。しかし、グループはその後事実上の解散、二人はソロとしてのキャリアを歩むことになります。

マーシャは、ソングライターとしてアリシア・キーズなどと仕事をいっしょにした他に、一時期ドクター・ドレーのアフターマスと契約していたこともあり(結局リリースできずじまいの塩漬けパターンではありましたが)、ヒップホップアクトとの共演も多く果たします。ソロシンガーとしても着実に地を固めていったわけですね。

そんな中、2011年にソロ第1作目となる『Late Nights & Early Mornings』をリリース、いきなり全米2位のヒットを飛ばすことになります。このアルバム、一言でいうとエロいんです。スロージャムが主体の非常に官能的な作品で、マーシャの歌声がときにまるで喘ぎ声のように聞こえたりする、すごくアダルトな仕上がり。トラックは生音主体で、時流とか関係なくやりたいことやってます感が伝わる、ソロ作に相応しい内容でした。

そのマーシャのソロ第2作なわけですが、この口唇ドアップのジャケ写が物語るように、今回も官能的な作風を堪能できそうです。すでに37歳のマーシャなので、どんだけアダルト路線で攻めてきても驚きはしないわけですが、優れたソングライターでもある彼女がセカンドでどんな歌声を聞かせてくれるのか・・・さっそく、中身にうつるとしましょう。

(1)Friends & Lovers (Intro)
1分強のイントロ。静かながら妖艶なマーシャの歌声。

(2)So Good
ダ・インターンズのプロデュース。イントロのシンセからはアップテンポな曲調を連想しますが、歌い出しとともにトーンダウンして緊迫感のあるトラックに。そして、前作同様、喘ぎ声のようにすら聞こえるマーシャの官能的なヴォーカルが炸裂。歌詞もセックスそのものといった感じで、アウトロの泣きのギター含め、全てがエロスでございますw

(3)Night Time
ジャスティス・リーグがプロデュース。こちらもダークなトーンのトラックで、歌詞はセクシャルではないものの、あなたを思う気持ちを歌っています。

(4)69
タイトルがまんま過ぎて何と言ったらいいか・・・。こちらもダ・インターンズのプロデュースで、スローでダークな曲調が続きます。アンビエントな雰囲気にマーシャの声がよくハマっているのですが、サウンド的には少し前からトレンド化しているR&Bの様式でもあるので、多少は意識して取り入れたのかもしれないですね。

(5)Shoes
エリック・ハドソンがプロデュース、ミディアムテンポのR&Bながら、ぬくもりのある音像でフックでは「わたしの靴はどこかしら」と歌われていますが、内容はわたしと彼女のどっちがいいのよと男に迫るような内容。「これで最後にしましょうと誓いながらいつもやめられないのよね」と歌う「わたし」は、きっと「彼女」にとっては男の浮気相手ということになるのでしょう。

(6)How Much More (Interlude)
1分弱のインタールード。

(7)Stronger feat. Dr. Dre
アルバムのハイライトの一つとも言えるセカンドシングル。シャーデーの名曲をマーシャ流にカバー。しかもマーシャ自身によるセルフ・プロデュースです。そして、ドクター・ドレーがまさかのラップで参加というおまけつき。豪華過ぎます。トラックはジェルー・ザ・ダマジャの「Come Clean」(DJプレミア制作)をサンプリングし、重めのヒップホップビートを採用。ロウな質感がマーシャらしくて素晴らしい。公開されているPVも非常に凝った作りで、ストーリーが結論から始まりに逆戻りしていくという仕掛けがあります。

(8)You & I
ラムゼイ・ルイスのドリーミングな「Juaaclyn」を引用した爽やかなコーラスワークな印象的な一曲。歌詞は別れてしまったかつての恋人への思いをうたった切ない内容。

(9)La La La La La
エリック・ハドソン制作。こちらも男女の情事がテーマの官能的な一曲ですが、注目は誰もが知っているであろうミニー・リパートンの「Lovin' You」のメロディーを引用していることでしょう。ただ、曲はあのドリーミングな感じではなくもっと重たい感じではあるのだけど。オンナの悦びをあのフレーズを使って表現しようという意図はよくわかります。

(10)Cupid (Shot Me Straight Through My Heart)
マーシャらしい重厚なコーラスからドリーミングなピアノへと展開するトラックに乗せて、「あなた」へのストレートな愛が歌われています。

(11)Kiss & Fxxk (Interlude)
ボサノバ調のインタールード。タイトルが身も蓋もないのですが。

(12)Love
R&Bではあるけど、ポップなフレイバーを感じさせる爽やかな一曲。前作もそうだったけど、アルバムの後半にこういう安定の曲を持ってくるっていう構成がおもしろいですね。

(13)Run
リードシングルで、マーシャ自身とアウター・アースというプロダクションチームが手がけています。ピアノ伴奏から始まり徐々に盛り上がっていくベタな展開。マーシャの歌声がある意味全てな楽曲ではあります。

(14)Spend All My Time feat. Charlie Wilson
ジャジーな雰囲気のスローバラード。マーシャの得意とするタイプの楽曲ではありますが、ここに御大チャーリー・ウィルソンが参加することで濃密さがアップ。アダルトなデュエットです。

(15)OMG I Miss You
アルバムのラストは、ダ・インターンズの制作ながら、ピアノと若干の楽器だけで構成されたシンプルなトラック。マーシャの気高くもあるヴォーカルが響き渡り、神聖な雰囲気で締めくくられます。

(16)Streets Of London feat. Skye & Lindsey Stirling
ボーナストラック。故郷であるロンドンへの思いをストレートに歌い上げています。ちょっとほっこりとした雰囲気になります。


全16曲収録。インタールード等を除くと13曲と構成としてもうまくまとめていますね。

前作ほどにスロー攻めではないものの、ミディアム~スローを中心とした内容で、全くといっていいほどぶれていないです。マーシャのヴォーカルも多彩で、これは彼女にしか表現できない世界でしょう。

女性の愛や性の喜び・悲しみを高らかに歌うマーシャ・アンブロジウスのセカンドも、やはり期待に違わない素晴らしいものだと思いました。


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