2013年12月28日土曜日

Beyoncé『Beyoncé』(2013)

個人的な話から始めましょう。

わたしのPCにはitunesというアプリケーションが入っています。昔試しにダウンロードしてみたのですが、あまりに使い勝手が悪く、すぐに使用するのをやめてしまった代物です。

しかし、そんなわたしが、どうしてもそのitunesを使用せざるを得ない場面が出てきたのです・・・そう、それこそがビヨ様の新作リリースでした。

はっきり言って、後からフィジカルでも出るとのニュースが出たときはどれだけ落胆したことか。どうして、ダウンロードの誘惑に負けてしまったのか。だって、CDで買ったほうが値段安いことがわかってしまったのですから・・・(いや、それだけじゃないけど)

まあ、それだけこの作品の突然リリース手法のインパクトが強かったということですね。わざわざこのアルバム落とすために、フィジカル派のわたしがitunesの登録までしてDLしてしまったのですから。それだけ、何か強力な力が働いたのです。

思い起こせば、ちょうど13日の金曜日のことでした。その日はわたし休みだったので、そして外が寒かったこともあって、家でゴロゴロしてたんですよ。そんでダラーンとツイッター眺めていたら、昼過ぎにまさかのビヨンセ新作リリースの情報がTLに流れてビックリ。しかも、よく調べると全曲にビデオ付きという大ボリューム。ぶったまげましたわ。リークとかじゃなくて、ちゃんとリリースされたんですからね。新作を製作中との話は散々出ていたけど、あまりに急過ぎるし、なんで情報モレなかったのだろうとか、思えばいろいろあるのですが、とにかくビヨ様の新作が世界に解き放たれたという衝撃がすごかったですね。もう、そのインパクトが全てですよね。

この手法について、ニュースでも取り上げられたりしていますが、ただ一つはっきり言えるのは、ビヨンセだから可能だったということです。全てをコントロールできるという立場にあることはもちろん、言わずと知れたスーパースター、新作はつねに話題の的なわけで、そんな彼女だから逆にこの突発的なやり方が功を奏したということなんでしょうね。比較するのは適切じゃないかもしれないけど、仮にケリー・ローランドが同じ手法を用いてもこんなにヒットすることはないでしょう。彼女は自分の名声をうまく利用したわけです。

振り返ると、前作は決してそれほどセールスに恵まれたわけではありませんでした。際立ったシングル・ヒットが少なかったことも影響していますが、『4』というタイトルに象徴されるように、何かコレといったコンセプトもないまま作り上げられたような感じがして、やや行き詰まった印象を受けてしまいました。

だからこそ、新作については慎重を期して実際に形になるには時間がかかるものと思われていました(リリース直前にも「新作は来年」みたいなニュースが流れていましたもんね)。でも、ふたを開けてみれば、「実はもうできていた!」というわけです。


ということで、さっそくこのアルバムの中身を見ていくことにしましょう。もちろん、どれだけサプライズな演出があっても、内容がなければヒットするなんてことはないわけで、そこはビヨンセ、「ヴィジュアル・アルバム」というコンセプトに相応しい、これまでとは一線を画す作風になっています(※ただし、今回は映像についてはコメントしません。映像も興味深い内容なのだけど、それに触れるととても大変になるので)。


(1)Pretty Hurts
ミディアム・テンポのR&Bからスタート。エレクトリックでアンビエントな要素を含んだ、ポスト・ドレイクを思わせるサウンド。アモという人が制作、シーアがソングライティングで参加。徐々に曲が盛り上がっていき、一曲目からドラマティックな展開を見せますよ。歌詞は、いわば見た目至上主義への警鐘とも言える内容で、内面の美しさを見なおしてみようというのがメッセージでしょうね。ビヨンセにそれを言われても・・・という感じもしますがw

(2)Haunted 
前半と後半で曲が変わる組曲。ブーツというプロデューサー(今回複数曲で抜擢されています)が手がけた一曲です。前半パートはこちらもアンビエントな始まりで、冒頭から若かりしのビヨンセの声が使用され、その後は呪術的にビヨンセがしゃべりまくる不思議な展開。彼女の歌はなし。後半はややトライバルなビートにシンセサイザー、そしてビヨンセのクールなヴォーカルが組み合わされた、これまた不思議な曲調。「取り憑かれた」というのは、具体的にどういうことなのかメタフォリカルでわかりにくいのだけど、セックスのことなのかと想像されます。

(3)Drunk In Love feat. Jay-Z
恒例のジェイZをフィーチャーした楽曲。曲調は比較的キャッチーながらも、ミディアムテンポでアンビエントなサウンドが続きますね。ノエル・フィッシャーが制作、ティンバ一派もアディショナルで参加しています。歌詞の内容は、わたしの英語力ではよくわからない部分があったりするのですが、おそらく、というかこれもセックスの歌ですねw 旦那の「二人で朝方もう一回セックス、お前のボインが俺の朝食さ」(大意)っていうフレーズが笑えます。

(4)Blow
ファレルとティンバ一派が制作という贅沢な組み合わせ。地味ながらちょっと軽快でお茶目な感じの曲調。なんだけど、歌詞の内容はまさかのク◯ニソング? "Blow"と言えば、まあお口を使ったプレイのことの比喩だったりしますが、その女性版ということでしょうか。

(5)No Angel
再度ブーツの制作、ビヨンセにしては珍しくファルセットを用いた官能的な表現を披露。歌詞は、わたしは天使なんかじゃないしあなたもそうよね、とセレブイメージの破壊に努めるビヨ様です・・・地元ヒューストンを意識したフレーズも出てきます。

(6)Partition
ティンバ一派に、JT、ザ・ドリームまで参加した強力なナンバー。こちらも前半と後半にわかれています。前半はパーカッシヴなビートとベース音のトラップ調で、ラップを披露しています。後半は指パチから徐々にビートが加わっていくやはりティンバっぽい展開。後半にフランス語のスキットが挿入され、「フェミニストだってセックスは好きなのよ」とチクリ。女性の固定的なイメージを覆そうとする意図が見えますね。

(7)Jealous
ノエル・フィッシャーが制作。メロディーはアルバムの中では比較的キャッチーな部類ですね。彼に対する嫉妬の気持ちを歌っています。「ときどきあなたの靴を履いて歩きたくなるの。いままでしたことないようなことをしたくなるの」などのフレーズが興味深いです。テーマ的に、わたしは尽くしてただ耐えるだけの都合のいいオンナじゃないのよ、ってことなのかなと推測されます。

(8)Rocket
ティンバ制作、ミゲルがソングライティングに参加した、官能的なスロウ。明らかにディアンジェロを意識したような、そんな作りの曲調。そして、たぶんこれは絶頂について歌っていますね。どこまでもエロくてステキですわ、ビヨ様。

(9)Mine feat. Drake
ドレイクとの共演。プロデュースもおなじみのノア・シェビブが担当。一曲の中で音が複雑に展開していきます。前半はピアノ一本、それからドレイクの声が入り曲調もまんまドレイクっぽいサウンドに、後半はビートがやや重たくなりドレイクのラップで終わっていきます。歌にラップにと、ドレイクが大活躍で逆にビヨンセの存在が薄い感じがしますけどね。

(10)XO
ライアン・テダーとザ・ドリームが手を組んだ一曲。今作の中ではかなりポップな仕上がり。歌詞もひねりなく爽やか。"XO"というのは「キスハグ」のスラングですね。

(11)**Flawless feat. Chimamanda Ngozi Adichie
こちらも前半と後半にパートが分かれています。前半はもともと"Bow Down/I Been On"というタイトルで発表されていたトラック。ゴリゴリのヒップヒップ調、レペゼン・ヒューストンで「ひれ伏しなさい、ビッチども」とエスっ気全開のビヨ様が痛快で大好きな一曲です。後半はナイジェリアの作家の「わたしたちはみなフェミニストたるべきである」というスピーチを引用、歌詞も女性賛歌になっていますね。

(12)Superpower faet. Frank Ocean
ファレル制作、ヴォイスパーカッションを取り入れたスロウ・バラード。フランク・オーシャンが控えめながら要を得たヴォーカルを披露し、愛の力について歌い上げています。

(13)Heaven
ピアノ主体の力強くも物悲しいバラード。流産で失ってしまった「生まれなかった子供」に捧げられた歌。ビヨンセの感情のこもった歌声を聞いていると切なくなりますね。

(14)Blue feat. Blue Ivy
そして、こちらは生まれてきた子供に捧げた歌。もう、この優しく包み込むようなビヨンセの歌声には母親として生きる喜びがストレートに表現されていますね。ラストには娘の声もしっかり収録、ほっこりとしたエンディングを迎えます。


CDの方は全14曲収録、ビデオの方には"Grown Woman"のボーナスビデオを含んだ全17曲の大ヴォリューム(ビデオの曲数が多いのは、(2)(6)の組曲を分解して収録しているからです)。

フューチャリスティックというのが具体的に何を意味するのか、よく考えたほうがいいような気がすけど、たとえばザ・ウィークエンドが体現するような、R&Bをベースにしつつもダブステップやエレクトロといった要素を加えて従来とは違うサウンドがこのアルバムでは主軸となっていて(そういうのがそう呼ばれてたりしますね)、それをポッと出のアーティストではなく、あのビヨンセがやったというのがまず強烈だなと思います。ヘタしたらインディーズっぽいアングラなサウンドになりそうだけど、そこはさすがのビヨンセ、さまざまな声の引き出しを駆使することで、マイナーになり過ぎないよう工夫されているなと感じました。

ただ、一方、そうしたサウンドを志向したがゆえに、これまでのアルバムでみられた彼女らしいイケイケのキラー・チューン("Crazy In Love," "Deja Vu," "Single Ladies,""Run the World"など)に連なる楽曲はなく、日本のファンからしたらややとっつきにくい印象を与えるかもしれませんよね。

かく言うわたしは、最初聴いた時、ポップさがなく、かといってオーセンティックなR&Bを聞いていて感じるフィーリングとも違う、なんとも独特な感触を味わいました。うーん、そう来たかーって感じですね。すんなり入ってきたわけではなかった。徐々に良さがわかってきたという感じですね。あと、シングルとか事前のプロモーションなく、ダウンロードしていきなり聴いたので、その分まっさらな状態で作品を楽しめたのはよかったかもしれないですね。

結局、これまでの続きみたいなことして『4』はコケたんだから、その状況をブレイクスルーするためにこうした作品を作り上げたんですよね、彼女は。そういうアイデアというか仕掛けをうまく作って、そして現に成功しているのだから、本当に彼女のプロデューサーとしての才能は素晴らしいと思います。

結婚しても子供を産んでも、攻めの姿勢を崩すことないビヨンセの新作、年末のリリースですが、、2013年を代表するアルバムの一つと言ってもいいでしょう。本当に一本取られたなあと思います。




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