2013年12月8日日曜日

Lady Gaga『ARTPOP』(2013)

「ジャパン、アイシテマ~ス」

そう口にする洋楽アーティストは数多く入れど、いまや彼女ほどそれが親しみをもち、なおかつ魅惑的なことばとして機能させられるアーティストはいないでしょう(って言い過ぎでしょうかねw)。

レディー・ガガのパフォーマンス能力の高さ、そのセルフプロデュース力の高さについて、いまさらどうこう言うのは野暮かもしれません。しかし、新作に合わせた来日プロモーションも、また期待を裏切りらない、インパクトのあるものだったように思います。ワイドショーでもこぞって取り上げられていましたもんね。

個人的におもしろかったのは、きゃりーぱみゅぱみゅやSMAPとの共演よりも、Facebookに掲載されていた山本寛斎とのツーショット写真でしょうか。今回のプロモ活動で"Kansai Yamamoto"デザインの衣装を何着も使用した彼女ですが、ついにはおっさん自身と写真を撮っちゃうなんて、うん、やっぱり目の付け所がシャープですね(笑)

さて、レディー・ガガが実際に日本のことをどのように捉えているのか。一つ言えるのは、音楽市場として捉えると確実に「外すわけにはいかない」場所と言うことでしょう。全世界に先駆け日本でアルバムを先行リリースし、オリコンチャートでも見事1位を獲得。相変わらずの人気なわけです。あそこまで力を入れて日本でプロモーション活動を行うにはそれなりの理由があるということですね。

ただ、本国での評価はどうなんだろう、と一方で思います。前作は爆発的なヒットをしましたが、そのウラには、amazonでリリースから2日間だけ99セントで叩き売りされたという薄利多売商法がありました。その賛否がどう影響したかはわかりませんが、ヒットポテンシャルが高い曲が多数収録されていたにもかかわらず「Born This Way」に匹敵するシングルヒットを量産することができず、やんわりと失速していったなあという印象を個人的には持っています。

そして残念ながら2011年と言えばガガの年ではなく、アデルの年だったんですよね。アデルの勢いが本当にすごかったから。

ということで、今作が全米1位を獲得したとはいえ、前作ほどの熱狂的な売り上げを記録しなかったとしても不思議ではないでしょう。落ち着くとこに落ち着いたと言うことなのだと思います。

でも、そこはガガ様ですよ。リスナーの期待を裏切らない作品を今回も送り出してくれたのですから。


それでは、アルバムの中身にうつりたいと思います。今作はガガがプロデュースに全面的に関与、DJホワイトシャドウ、ゼッド、マデオンといったEDM系のプロデューサーとタッグを組んで制作されており、立役者のレッドワンは残念ながら一曲に関与しているのみです。


(1)Aura
カントリー風なアコギから始まる不気味とも言えるイントロ。そこからラップ調のガガの歌が飛び出したと思ったら、一気にEDM的な伸びのあるフックへ。一曲目からいろいろな要素を盛り込んだポップスになっていますね。公開されているリリック・ビデオでは、彼女が出演したアクション映画『Machete Kills』の映像が使用されたものになっています。
(2)Venus
当初はセカンドシングルとしてリリース予定だった2曲目。ミッドテンポのエレクトロポップです。ジャケ写に「ヴィーナスの誕生」の一部が使用されているように、ヴィーナスというモチーフはアルバムのコンセプトにも影響を与えているようです。曲のなかでは、天文学的な意味でも、美しい女性の意味でも使われていますが、歌詞の中にある「あなたに触れられたらわたしは死んでしまう」っていうフレーズの「わたし」って誰のことなんだろう、と考えるとなかなか興味深いですね。

(3)G.U.Y.
こちらもエレクトリックなテイストのポップス。タイトルの「G.U.Y」は、「guy」と「Girl Under You」のダブルミーニングで、「あなたに守られていたい」というような意味を込めているんでしょうね。まあ、そこだけ取るとガガっぽくない感じもしますが。

(4)Sexxx Dreams
同じような曲調が続きます。「昨日の夜わたし夢の中であなたでセックスしてたの」って直訳すると身も蓋もない歌詞ですが、ガガがこうした女性のセクシュアル・ファンタジーを歌っても、あまり抵抗がないのが不思議ですね。気になる点として、歌詞中に「あなたのボーイフレンドが今週はいてないんだって」というフレーズが登場します。ファンタジーの対象は女性ということでしょうか?

(5)Jewels N' Drugs feat. T.I., Too $hort & Twista
なぜこのメンツを集めたのか、不思議ではありますが、個性派のラッパー3人を寄せ集めて、ダーティーなヒップホップ調の楽曲に挑戦しています。インパクトが強いけど、あんまりガガっぽくないという感じもします。そこがポイントかもしれませんが。

(6)MANiCURE
ダークな曲調から一転、ハンドクラップがテンションを高めるロック調のナンバー。アルバムの中でもっともノリノリと言っていいでしょう。

(7)Do What U Want feat. R. Kelly
アルバムからのセカンド・シングルですね。この楽曲のスバラシイところは、あのエロ巨匠としてのR.ケリーを担ぎだしたことでしょう。ソウルの帝王じゃなくて、あのケルズ師匠ですよ(笑) この意外な組み合わせがなかったら、おそらくシングルカットされなかったでしょう。それにしても、下に貼り付けた二人のパフォーマンスの露骨さと言ったら・・・

(8)ARTPOP
アルバムの表題曲。ちょうど、真ん中の8番目に配されています。やや浮遊感のある、アンニュイな雰囲気の一曲で、大してインパクトもないのだけど(笑)、コンセプトとなる"ARTPOP"をこうした楽曲で表現してきたのは意外ですね。

(9)Swine
一転してバキバキのシンセが強力なエレクトロポップ。ガガのヴォーカルも強弱つけて、さすがのパフォーマンス力です。ところで、タイトルの"swine"って「豚」っていう意味なんですね。「あんたなんて、人体に潜んだ豚みたいなもんよ」って、強烈なメタファーなんだけど、こういうヘイトチックな歌ってガガにしては珍しいかもしれないですね。

(10)Donatella
ドナテラというのは、ドナテラ・ヴェルサーチのこと。言わずと知れたブランドのデザイナーのことを歌っています。なぜ彼女を取り上げたのかわかりませんが、セレブの気持ちはセレブにしかわからない・・・ということなんでしょうか。

(11)Fashion!
こちらもファッションネタで、ダンスポップな曲調が続きます。ジョルジオ・トゥインフォート、デヴィッド・ゲッタ、ウィル・アイ・アムという豪華メンバーが参加しつつ、あんまりそれっぽい感じがしないのではありますが・・・

(12)Mary Jane Holland
アルバムを通じて、こういうエレクトロポップな曲調で固めてきているので、好きな人は好きだし、飽きる人は飽きるだろうなあ、と思い始める12曲目です(笑) 悪くないんだけどね。でも、もうちょっとひねりが欲しいなあ、さすがに。

(13)Dope
まさかのリック・ルービンのプロデュース。ピアノ主体のバラードで、しかもヴォーカルは重たく怒りのような嘆きのような、そんな歌い方をしていますね。これまでにも「Speechless」や「You and I」といったロッカ・バラードをヒットさせているガガですが、この曲も正式にシングルカットされたわけではないにも関わらず全米8位まで上昇するヒットを記録しています。

(14)Gypsy
こちらもピアノから始まりますが、徐々に盛り上がってアップテンポに展開、とても開放感のある曲です。そして、この曲にだけレッドワンが関わっています。これ聴くと、もっとレッドワンとコラボしてくれよ、と思ってしまうのですが・・・

(15)Applause
リードシングルを最後に持ってくるというのも、また大胆な構成ではありますが、確かに全体を通して聴くと、この曲ってちょっと毛色が違うというか、浮いちゃうかもしれないなという感じがします。曲は、前作と今作をつなぐような、これぞガガというハイテンションなポップで、一聴して「これはヒットする」と思いました。めまぐるしく変化するイメージのPVもスバラシイです。アルバムの〆は拍手喝采で終わろうということなのかもしれませんね。


全15曲収録。デラックス盤はDVD付属だけど追加楽曲はなし、コンセプチュアルにまとめて来たなという感じがします。

正直言うと、もう少し曲調にヴァリエーションがあった方がいいなあと思ったのだけど、前作のような作りだとそれはそれでお腹いっぱいになっちゃうので、今回はエレクトロポップ路線で攻めたのかもしれません。

あと、音作りに関して言えば、ライヴパフォーマンスの部分を意識しているように思いますね。実際、youtubeにアップされている彼女のライヴ映像を見ると(DVDにも収録されていますが)、曲の世界観がアートして表現されていて、これが彼女がやりたいことなんだとわかるような仕掛けになっています。まさにエンターテイナーだなと思わせてくれます。

「Applause」に続くキラーチューンみたいなのがあまりないような感じがするけど、全体としてガガらしいエネルギーにあふれた意欲作だと思いました。




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