2014年2月20日木曜日

Toni Braxton & Babyface『Love Marriage & Divorce』(2014)

90年代のR&Bを席巻した二人によるデュエット・アルバムです。二人を知る人にとって、こういう形で新作が発表されるというのはうれしい驚き意外の何物でもないのだけど、それにしても、これはスゴイ組み合わせだなあと思います。

そもそも、男女のデュエット・アルバムなど今も昔もそう滅多に出るような代物ではなく、ぱっと思い浮かんだのといえばマーヴィン・ゲイの一連のデュエット盤ぐらいのもの(すごく古いですねw)。つい最近では、ノラ・ジョーンズとビリー・ジョーのコラボ作なんてありましたけど、ビッグネームの二人にも関わらずひっそりとリリースされ、あまり話題にもなりませんでした。

それだけ、こういう企画を実現させる、それをヒットさせるのは難しいということなのだと思います。余技的な要素がどうしても強くなりますからね。でも、このアルバム、どう考えても「お遊び」じゃないわけです。これは売れることを意識したアルバム。最近では裏方として大人しくしているように見えたベイビーフェイスが前に出て、内容もカバーではなくオリジナル、トニ・ブラクストンという大物とがっぷり四つに組んだのだから、これはタダ事ではありませんよ。

ここ最近の二人の動きを振り返っておきましょう。まず、今作で全曲のプロデュースを担当し、シンガーとしてあの甘い声を披露しているベイビーフェイスですが、シンガーとしては2007年に『Playlist』という作品を出して以来の新作ということになります。もちろん、ソングライター、プロデューサーとしての一面もある彼なだけに、最近でもアリシア・キーズやアリアナ・グランデ、アンソニー・ハミルトンなど若手からベテランまで、R&B中心に手堅く仕事をこなしています。ちなみに、御年54歳でございます。

一方のトニ・ブラクストンといえば、ここ最近で注目されたのは例のリアリティショー(『ブラクストン・ファミリー・バリュー』)でしょうか。音楽的には2010年にアトランティックに移籍して『Pulse』というアルバムをリリースしましたが、あまりヒットせず(内容はよかったけど)、それ以後は、SLE(全身性エリテマトーデス)に罹患していることを公表、疾患の影響もあって、目立った活躍をしていませんでした。そういえば、2012年に「I Heart You」という意表をつくダンサブルなシングルを発表しましたが、あれは何だったんでしょうね。あまりヒットしませんでしたが。一説では彼女の「ファイナル・アルバム」につながる曲だったみたい。いったい今後どうなるのか、個人的には気になるところです。

そう、トニブラといえば、引退宣言が話題を呼びました。昨年の2月頃のことですね(→こちらの記事を参照)。病気の影響などもあり、音楽活動に前向きになれなかったそうです。それに対し、待ったをかけた一人がベイビーフェイスでした。そこから話はなぜかデュエットアルバムの制作へと進み、こうして見事リリースまでこぎつけたというわけです。本当に何があるかわかりませんね。

そもそも、二人の音楽的な関係は、ベイビーフェイスの92年作「Give U My Heart」にまで遡ります。映画『Boomerang』に収録されたこの曲で、デュエットの相手を務めているのがトニというわけです。その翌年には、ベイビーフェイスは大ヒット作となる彼女のデビュー作でも手腕をふるい、彼女を一躍スターダムにまでのし上げることに成功します。彼女の初期の輝かしいヒットの多くをプロデュースしてきたベイビーフェイス、彼の存在なくしていまのトニは存在しないと言ってもいいでしょう。

そんな二人が20年以上の時を得て、こうして再演するというのは、この二人の歩みを考えると感慨深いものがあります。タイトルに表されているように、双方ともに結婚と離婚を経験したということもそうですが、円熟した二人だから表現できる世界というのがきっとあるのだと思います。

ということで、アルバムの中身に移っていきましょう。言うまでもなく。ベイビーフェイスが全面的にプロデュースしており、主役の二人に加えて旧知のダリル・シモンズやここ最近よくタッグを組むアントニオ・ディクソンらもソングライティングに加わっています。


(1)Roller Coaster
曲は「ローラーコースター」と激しそうなのに、とても静かな立ち上がり。しっとりと上品に二人が声を交わしていきます。不思議なもので、ベイビーフェイスは甘い歌声なのに対しトニは女性としては低めの声なので、二人の声が重なるとちょうどいい感じになるんですよね。のっけから二人の相性のよさを示す曲だと思います。

(2)Sweat
R&Bというかブラコン、あるいはフュージョン的な感じとでも言いましょうか。スムースで洒脱なサウンドに乗せて、歌われるのは・・・たぶん、セックス。でも、すごい上品なので、いやらしい感じが全然しません。不思議だなw 童顔氏のファルセットがいい味を出しています。

(3)Hurt You
リードシングルとして発表され、アダルトR&Bチャート(そんなもんあるのか!)で1位を獲得したということで話題になりました。メランコリックなピアノから入り、フックではどっしりとしたビートも加わるストレートなR&Bナンバー。サビでは「あなたを傷つけるつもりはなかったって、神様は知っている」と歌われ、男女がそれぞれ傷つけ合ったことを認めながら、最後には「あなたのやさしいキスだけ いま欲しいのは」と仲直りのことばで締めくくられます。うーん、オトナの恋愛だなあって思いますね。

(4)Where Did We Go Wrong
アコギが主体のベイビーフェイスらしいテイストのぬくもりのある楽曲。セカンドシングルです。童顔氏のファルセットとトニのブレスの利いたヴォーカルが妖艶なハーモニーを醸し出しています。歌詞は、愛しているはずなのにいつのまにかすれ違ってしまった二人・・・という切ない内容。

(5)I Hope That You're Okay
ベイビーフェイスのソロ曲。スムースなR&B、ということば以外にあまりいい形容が思いつかないのだけど・・・要は可もなく不可もなくといった曲ですね。

(6)I Wish
つづいてトニのソロ曲。ピアノとストリングスが主体のしっとりしたバラード。ちょっと哀しい感じもしますが、トニの円熟した歌声が堪能できます。歌詞なんですが、曲調に反してなかなか刺激的でして、構図としては、以前つきあっていた「あなた」には「彼女」がいるのですが、その「あなた」のことが忘れられない「わたし」が嫉妬のような気持ちをぶつける内容。曰く「彼女にふられたらいいのに」「彼女に病気にされたらいいのに」「彼女があなたのお金を全部使い込んでしまえばいいのに」といった具合。叶わぬ恋の切なさというやつでしょうかね。

(7)Take It Back
デュエットに戻ります。「二人であの頃を取り戻そう」と力強く歌われていますね。文脈がはっきりしない歌詞なのですが、長年寄り添ってきた二人がふと立ち止まって青春時代をまたやり直さないかい、と若き日を回顧する内容なのかあと思ったりしました。

(8)Reunited
曲調としては、おんなじような感じが続きますが、こちらもメロディアスな展開で二人の美声にはうっとりさせられます。内容は一度別れた二人がやっぱりあなたしかいない、と縒りを戻すという感じで(3)に通じるテーマですね。もちろん、この二人のリユニオンという意味にも読むことができます。

(9)I'd Rather Be Broke
トニのソロ曲パート2。なぜトニだけソロが2曲入っているのかわかりませんが、まあ、よしとしましょう。こちらはトニらしいパワフルなヴォーカルも飛び出す、徐々に盛り上がるミディアム・バラードです。歌詞は「あんたとなんかわかれたほうがマシよ」という三行半系の内容ですが。

(10)Heart Attack
終盤に来てなぜこんなノリノリなナンバーを持ってきたのだろう、と思わせる上品ながらも4つ打ち系のR&B。サビではカッティングギターの音も加わり、軽くディスコティックな気分になります。そんでもって、ベイビーフェイスのヴォーカルにはフィルターがかけられていて、どちらかと言えばトニのソロ曲に近い感触ですね。

(11)The D Word
ラストはタイトルから推測される通り、「離婚(Divorce)」がテーマのようですが、やっぱりここでも「あなたのことが~~~」となってしまうのですね。そういう「腐れ縁」的な歌詞が多いのは、ベイビーフェイスの実生活を反映しているからなのでしょうか。音楽的には、ベイビーフェイスがリードを取りながら、トニのとてもアンニュイなヴォーカルが不思議な魅力を醸し出す、浮遊感のある曲になっています。


全11曲収録。デラックス盤では2曲追加されています。

いやー、何度も書きますけど、二人の相性は抜群ですね。今回のために?髪型も昔と同じショートヘアに戻したトニですが、20年以上の時を得ても変わらぬコンビネーションに感心しました。

そして、ベイビーフェイスの生み出すサウンドは、保守的といえばそうかもしれないけど、タイムレスなR&Bであり、この時を越えたデュエットに相応しいコクと深みを与えていると思います。本当に良質だなあ、と思いますよ。

イマドキのR&B作品と比したら、古臭いかもしれないけど、2014年早々に素晴らしい作品にまた出会えたなあと思いました。




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